投稿日:2026.10.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
肉腫は全身の骨や筋肉、脂肪、血管などから発生する悪性腫瘍です。発生頻度が低く種類が多いため、標準治療の選択肢に悩む患者さまが少なくありません。診断がついた直後から、今後の生活や仕事への影響に不安を感じる方も大勢いらっしゃいます。今月は、治療開発の進展から病態解明、診療体制の議論まで、患者さまの未来に関わる確かな動きが見られました。
日々の診療現場での実感も交えながら、最新の情報を整理してお伝えします。
創薬ベンチャーのレナサイエンスが開発中のRS5614が、厚生労働大臣より希少疾病用医薬品の指定を受けました。対象となる疾患は、軟部肉腫の中でも予後が厳しいとされる皮膚血管肉腫です。
血管肉腫は頭部や顔面の皮膚に生じやすく、高齢者に多く見られる悪性腫瘍です。既存の抗がん剤や放射線治療では再発を繰り返す事例が多く、有効な手立てが限られていました。RS5614はプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1というタンパク質の働きを抑える飲み薬です。がん細胞の浸潤や新生血管の形成を阻害する作用を持っています。
現在進められている第2相臨床試験において一定の有効性が示唆され、今回の指定に至りました。希少疾病用医薬品に指定されると、優先審査の対象となり実用化への期間が短縮されます。すぐに保険診療で使えるわけではありませんが、開発が加速することは確実です。
外来でも患者さまから「頭部の血管肉腫で使える薬は増えませんか」と切実な質問を受けることがあります。点滴ではなく内服薬として開発されている点も、通院負担の軽減につながると期待されます。治療の選択肢に不安がある方は、治験の適応や今後の見通しについて主治医や当グループにご相談ください。
骨肉腫が10代の急激な骨成長期に、膝の周りへ集中的に発生する原因の一端が基礎研究で明らかになりました。骨が急速に伸びる部位特有の細胞代謝と力学的負荷が、発がんの引き金になることが示されています。
骨肉腫は小児から思春期にかけて最も多く見られる骨の悪性腫瘍です。大腿骨の遠位部や脛骨の近位部といった膝関節周辺に全体の半数以上が生じます。なぜ特定の年齢の膝に集中するのかは、長年謎のままでした。今回の研究では、骨の伸長を担う成長軟骨帯周辺で活発に働く特定のシグナル伝達系が、遺伝子変異と結びつく仕組みが突き止められました。
今回の発見は将来の研究段階に位置づけられる成果であり、明日の診療を直接変えるものではありません。とはいえ、発症の根本的なメカニズムが解明された意義は小さくないと考えます。がん細胞だけを狙い撃ちにする新たな分子標的薬の開発や、より精度の高い早期発見法の確立につながる基盤となるからです。
骨肉腫の治療現場では、強力な化学療法と手術を組み合わせる過酷な治療が今も標準です。副作用に耐える若い患者さまを目の当たりにするたび、より身体への負担が少ない治療法の登場が待たれます。膝の長引く痛みに不安を抱えているご家族は、単なる成長痛と自己判断せず、専門の医療機関を受診してください。
希少がんである肉腫の治療成績を高めるため、専門拠点への医療集約化とゲノム解析の活用が改めて注目を集めています。多様な組織型に対応するためには、診断と治療の高度な連携が欠かせません。
骨軟部腫瘍は数十種類以上のサブタイプに分かれており、病理診断そのものが極めて困難です。そのため、症例数が豊富な専門機関に情報を集約し、正確な診断を下す体制づくりが全国で議論されています。同時に、個々の腫瘍が持つ遺伝子異常を網羅的に調べるがんゲノムプロファイリング検査の活用が定着してきました。
ここで注目したいのは、がん細胞そのものだけでなく、周囲の腫瘍微小環境を評価する研究が進んでいる点です。間質細胞や血管、免疫細胞との相互作用を読み解くことで、免疫療法の効果を予測する試みが広がっています。肉腫は一般的に免疫が効きにくいとされてきましたが、微小環境の制御によって効果を引き出せる可能性が出てきました。
当院でも患者さまから「遺伝子パネル検査を受けた後、どんな治療を選べばよいのか」という声を多くいただきます。標準治療が一段落した段階であっても、ゲノム解析や微小環境の評価によって新たな選択肢が浮上することは珍しくありません。ご自身の腫瘍のゲノム情報や先進的なアプローチに関心がある方は、いつでもお気軽にご相談ください。
肉腫はプレシジョンクリニックグループが創業以来最も力を注いで取り組んでいるがん種です。今月は希少疾患に対する新薬の優先審査指定や病態解明など、希望につながる確かな進展がありました。当グループでは網羅的なゲノム解析に加え、腫瘍微小環境を詳細に捉えた個別化医療の実績を積み上げています。
多様な組織型を持つ肉腫だからこそ、画一的な治療にとどまらず、患者さま一人ひとりの病態に深く寄り添う姿勢を大切にしています。治療の選択肢や今後の生活について迷われた際は、遠慮なく当グループへご相談ください。
まだ使えません。希少疾病用医薬品の指定は優先審査の対象になるという意味で、承認ではありません。現在は第2相臨床試験の段階で、保険診療では受けられません。治験に参加できるかどうかは、主治医か私たちにご相談ください。
骨肉腫は10代の急激な骨成長期に多く、大腿骨の遠位部や脛骨の近位部といった膝の周りに半数以上が生じます。痛みの原因は診察と画像で確かめる必要があるので、長引くときは成長痛と自己判断せず、骨軟部腫瘍を診ている専門の医療機関を受診してください。
肉腫は一般的に免疫が効きにくいとされてきました。一方で、腫瘍微小環境(間質細胞・血管・免疫細胞の相互作用)を読み解いて効果を予測し、環境の制御で効果を引き出そうとする研究が広がっています。効果には個人差があるため、私たちは遺伝子解析と微小環境の評価を行ったうえで、組み合わせを検討します。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年9月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年10月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。