投稿日:2026.10.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
食道がんと診断されたとき、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬の効果がどれくらい続くのか不安に感じる方は少なくありません。現在標準治療として使われている薬剤でも、効果に個人差が存在します。治療効果を最大限に引き出すために、腸内環境やゲノム情報に着目した新しいアプローチの研究が進んでいます。今回は2026年9月の日本癌学会学術総会で発表された知見を中心に、最新の知見を解説します。
抗菌薬の前処置を行った上で糞便微生物叢移植を実施し、免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療の安全性が確認されました。2026年9月24日から26日に京都市で開催された第85回日本癌学会学術総会で発表された研究成果です。
この臨床試験では、切除不能な進行再発の食道扁平上皮癌や胃癌の患者さまを対象に検証が行われました。事前に抗菌薬を投与して患者さま自身の腸内細菌を減らした後に、健康なドナーの便を移植する手法を用いています。
移植後に免疫チェックポイント阻害薬を中心とする抗がん剤治療を実施したところ、重篤な有害事象は認められませんでした。一部の症例では腫瘍の縮小が確認され、有望な抗腫瘍効果が示されています。
この技術は将来の実用化を目指す研究段階に位置づけられます。今すぐ保険診療で受けられる治療ではありません。
既存の免疫療法で効果が得られにくかった患者さまに対する、新たな併用戦略として期待が集まっています。免疫治療の反応性について疑問や不安をお持ちの方は、主治医や当グループへご相談ください。
腸内細菌のバランスが免疫細胞の働きを活性化させ、食道がん組織の周囲にある腫瘍微小環境を整える仕組みが解明されつつあります。腸とがんは一見離れているように見えますが、全身の免疫系を介して密接につながっています。
私たちの外来でも、患者さまから食事や腸内環境ががん治療にどう影響するのか質問される場面が増えてきました。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がリンパ球にかけているブレーキを解除する薬です。
腸内に特定の善玉菌が存在すると、樹状細胞やT細胞が刺激され、がんを攻撃する力が高まることが分かっています。今回の学会報告でも、便移植によって腸内環境が変化し、免疫疲弊が抑えられた可能性が指摘されました。
ただし、市販の整腸剤やヨーグルトを自己判断で多量に摂取しても、同様の抗腫瘍効果が得られるわけではありません。特定の菌株の組み合わせや移植方法の標準化など、今後の臨床研究による検証が必要です。
日々の食事管理や腸内環境の整え方について気になる点があるときは、無理な民間療法を選ばず、担当の医師や栄養士、当グループにお声がけください。
血液中の微量ながん由来DNAを調べるctDNA検査において、酵素の影響で実際にはがんが存在しても陰性と判定される現象が判明しました。同じく第85回日本癌学会で、消化器癌におけるDNA分解酵素DNASE1L3の発現に関する基礎研究が報告されています。
体内にあるDNA分解酵素の働きが強い患者さまでは、血中に漏れ出たctDNAが速やかに分解されてしまいます。その結果、血液検査上は陰性と表示されてしまい、微小な残存病変を見逃す懸念が示唆されました。
食道がんでも手術後や化学放射線療法後の再発リスクを把握するため、リキッドバイオプシーの応用が急速に進んでいます。今回の知見は、リキッドバイオプシー単独で再発の有無を判断することの危うさを示す貴重なデータです。
この発見は検査の精度向上に向けた研究段階の知見であり、今すぐ検査手順が変更されるわけではありません。画像検査や内視鏡検査と血液検査を組み合わせる重要性が、改めて浮き彫りになりました。
外来でも、血液検査で異常がなければ内視鏡検査を省略できないかと相談されることがあります。検査の限界を正しく理解し、適切な組み合わせで経過観察を受けることが大切ですので、主治医や当グループにご相談ください。
食道がんの治療成績を高める鍵は、一人ひとりの腫瘍組織が持つ遺伝子変異を網羅的に調べるがん遺伝子パネル検査にあります。手術標本や生検組織を用いた包括的ゲノム解析により、標準治療の枠を超えた分子標的薬の適応が見つかる事例が出てきました。
食道扁平上皮癌ではTP53やCCND1などの変異が高頻度で見られる一方、腺癌ではHER2過剰発現なども標的となります。さらに遺伝子変異の数を示すTMBやマイクロサテライト不安定性の有無も、薬選びの大切な指標です。
組織の採取が難しい場合には、血液を用いるリキッドバイオプシーが有力な選択肢になります。先述の分解酵素による偽陰性リスクを考慮しつつも、低侵襲に病勢の変化を追跡できる利点は見逃せません。
当院でも患者さまから、自分に合う分子標的薬や治験がないかと相談に来られる方が多くいらっしゃいます。適切な時期に遺伝子検査を受けることで、次の治療ステップを先手で検討できます。
標準治療の開始前や治療方針の切り替えの時期には、がんゲノムプロファイリング検査の適応について、主治医や専門医療機関に相談してみることをお勧めします。
食道がんの治療開発は、腸内細菌叢を標的とした免疫療法の増強や、高精度な分子診断による個別化医療へと着実に進化しています。プレシジョンクリニックグループは食道がんを創業以来最も熱心に取り組んできた疾患の一つと位置づけ、ゲノム解析や腫瘍微小環境の評価に基づいた先端診療の実績を重ねてきました。
標準治療を基軸に据えながら、新しい検査や科学的根拠に基づいた治療選択肢を患者さまへ提示することを大切にしています。治療選択や検査のタイミングに迷われた際は、どうぞ当グループへお気軽にご相談ください。
保険診療では受けられません。2026年9月の日本癌学会で報告された治療は、切除不能な進行再発の食道扁平上皮がんや胃がんを対象にした臨床試験の段階で、今後の研究で検証が続きます。当院でも便移植は行っていません。免疫療法の効きが気になる方は、いま受けられる治療の組み立てからご相談ください。
自己判断で多量にとっても、報告されたような抗腫瘍効果が得られるわけではありません。どの菌株の組み合わせをどう移植するかはまだ標準化されておらず、臨床研究で検証が必要な段階です。食事や腸内環境が気になるときは、無理な民間療法を選ばず、主治医や栄養士、私たちにお尋ねください。
そうとは限りません。DNA分解酵素の働きが強い方では、がんがあっても血液中のctDNAが速やかに分解され、陰性と出ることがあります。画像検査や内視鏡検査と組み合わせて経過を見ることが大切で、血液検査だけで内視鏡を省略することはお勧めしません。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年9月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年10月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。