This Article Covers
この記事でわかること
本症例の概要:肝臓に多発転移があり手術ができない食道がんステージ4と診断された53歳男性が、抗がん剤に樹状細胞ワクチン療法を併用。CTで肝転移の消失を確認し、抗がん剤を副作用で中止したあとも樹状細胞ワクチン療法を続け、診断から13年が経った現在も無再発で経過しています。
食道がんは、日本では約9割が扁平上皮がんというタイプです。ステージ4は、がんが食道の壁を越えて周囲の臓器に広がったり、離れた場所に転移したりした段階を指します。日本食道学会の分類では、大動脈や気管など周囲の臓器へ浸潤している場合や、離れたリンパ節に転移している場合をⅣA期、肝臓・肺・骨など離れた臓器に転移している場合をⅣB期と分けています。
本記事の症例は、肝臓に多発転移があるⅣB期に相当します。この段階では、がんを手術で取りきることは通常できません。治療の中心は、体全体に効く薬物療法になります。
国立がん研究センターの院内がん登録による集計では、食道がんⅣ期の5年相対生存率は1割前後にとどまります。ただしこれは、診断時の状態がさまざまな患者さん全体の平均です。転移の場所や数、体力、治療への反応によって経過は大きく異なり、統計の数字がそのまま目の前の一人に当てはまるわけではありません。
食道がんの代表的な症状は、食べ物のつかえ感、飲み込むときの痛みや違和感、体重減少です。本症例も、食事のときの違和感がきっかけで見つかりました。進行すると、声のかすれ(反回神経への影響)、咳や誤嚥(気管への浸潤)、胸や背中の痛みが出ることがあります。
肝転移そのものは、初めのうちは症状が出にくいのが特徴です。転移が大きくなったり数が増えたりすると、だるさ、食欲低下、右のわき腹の重さ、黄疸などが現れます。症状がないうちにCTで見つかることも珍しくありません。
| 内視鏡検査・生検 | 食道の内側を直接観察し、組織を採って診断を確定します。がんの広がりや狭窄の程度も分かります。 |
|---|---|
| CT・PET-CT | リンパ節や肝臓・肺など離れた臓器への転移を調べ、ステージを決めます。治療の効果判定にも使います。 |
| 超音波内視鏡(EUS) | がんが食道の壁のどの深さまで達しているか、周囲のリンパ節の状態を詳しく見ます。 |
| 腫瘍マーカー | SCC抗原、CEA、CYFRAなど。診断の補助と、治療中の経過の目安に使います。 |
| バイオマーカー検査 | PD-L1(CPS)の発現などを調べ、免疫チェックポイント阻害薬の使い方を決める材料にします。 |
肝臓など離れた臓器に転移がある場合、手術で根治を目指すことは難しく、全身に効く薬物療法が治療の柱になります。2026年時点の標準的な考え方を整理します。実際の選択は、体力、合併症、バイオマーカーの結果をふまえて主治医と決めていきます。
| 一次治療 | 抗がん剤(5-FU+シスプラチン)に免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、またはペムブロリズマブ)を組み合わせる治療が標準になっています。扁平上皮がんでは、ニボルマブ+イピリムマブという抗がん剤を使わない組み合わせも選択肢です。 |
|---|---|
| 二次治療以降 | タキサン系抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセル)などを用います。一次治療で免疫チェックポイント阻害薬を使っていない場合は、ニボルマブ単剤も選択肢になります。 |
| 放射線治療 | 食道の狭窄や痛みをやわらげる目的で、局所に放射線をあてることがあります。転移が限られている場合には、抗がん剤と組み合わせた化学放射線療法を検討することもあります。 |
| 症状をやわらげる治療 | 食べ物が通りにくいときは、食道ステントや胃ろうで栄養の経路を確保します。痛みや倦怠感への対応も、治療と並行して行います。 |
当グループでは、抗がん剤や放射線などの標準治療を土台にしながら、患者さんご自身の免疫ががんを攻撃できる状態をつくることを目指します。免疫を活性化する〈アクセル〉として樹状細胞ワクチン療法、免疫の〈ブレーキ解除〉として免疫チェックポイント阻害薬、局所で免疫のスイッチを入れる放射線治療などを、患者さんの状況に応じて組み合わせる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で設計します。
抗がん剤が効いている間に免疫療法を始めておくと、抗がん剤を減らしたり中止したりしたあとも、免疫療法だけで経過を見られる場合があると考えています。本記事の症例は、まさにその経過をたどった一例です。
肝臓など離れた臓器に転移がある場合、手術でがんを取りきることは通常できません。治療の中心は薬物療法になります。ただし、薬物療法でがんが小さくなり、限られた病変だけになった場合に、手術や放射線を検討することはあります。
受けられます。当グループでは、抗がん剤などの標準治療と並行して樹状細胞ワクチン療法を行うことが多く、本症例も抗がん剤と併用して開始しています。体力や血液検査の結果をみて、開始時期と組み合わせを個別に決めます。
できます。本症例も、抗がん剤を副作用で中止したあとは樹状細胞ワクチン療法だけを続けて経過をみています。これまでの治療歴と検査結果をうかがったうえで、次に検討できる選択肢をご説明します。
1クール(7回)を基本の単位とし、経過に応じて間隔をあけながら継続する方が多くいらっしゃいます。本症例は開始から12年以上、間隔を調整しながら続けています。期間は経過と相談しながら決めます。
Case Report ─ 当院の改善症例
重要症例
この症例のポイント
ここまで食道がんステージ4の標準的な治療を整理しましたが、当グループでは、抗がん剤に樹状細胞ワクチン療法を組み合わせることで、肝転移が消失し、その後も長く再発のない経過をたどった患者さんを経験しています。抗がん剤を副作用で中止したあとは免疫療法だけで経過をみており、診断から13年が経ちました。実際の経過をご紹介します。
| 患者さま | 53歳 男性(診断時)。2026年3月末現在 66歳 |
|---|---|
| 診断名 | 食道がん |
| ステージ | 4(肝臓に多発転移) |
| 状態 | 手術の適応なし。抗がん剤で進行 |
| 治療内容 | 抗がん剤(5-FU+シスプラチン → ドセタキセル)+樹状細胞ワクチン療法(現在も継続中) |
| 治療費 | 料金表ページをご覧ください。 |
| 2013年7月 | 食事の際の違和感をきっかけに精査。肝臓に多発転移を伴う進行した食道がんと診断。手術の適応なし |
|---|---|
| 抗がん剤 | 5-FU+シスプラチンを開始するも進行。2種類目のドセタキセルへ変更 |
| 2014年1月 | 樹状細胞ワクチン療法を開始。抗がん剤と併用 |
| 2015年6月 | CTで肝転移の消失を確認(治療前2013年11月との比較) |
| 抗がん剤中止 | 副作用が出てきたため抗がん剤を中止。以降は樹状細胞ワクチン療法を継続しながら経過観察 |
| 2026年3月末 | 診断から13年、免疫療法開始から12年以上。無再発で樹状細胞ワクチン療法を継続中。趣味の釣りを楽しまれている |

当グループでは、標準治療(抗がん剤)を土台としつつ、プラスアルファで免疫の働きで後押ししていきます。進行がんでも免疫の働きを強化するために、患者さまの状況に応じて複合的に免疫を改善させる独自のプロトコルSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で個別に免疫治療を設計します。
本症例では、標準治療としての抗がん剤に、免疫を活性化する〈アクセル〉として樹状細胞ワクチン療法を組み合わせました。抗がん剤が効いているうちに免疫療法を始め、抗がん剤を中止したあとは免疫療法を軸に経過をみる、という設計です。
免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)では副作用が認められることはほとんどありませんが、未知の副作用等が起こる可能性は否定できません。主な副作用は以下のとおりです。
本症例は、肝臓への多発転移を伴い手術が困難な食道がんステージ4という厳しい状況から、抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を併用することで肝転移が消失し、診断から13年が経過した現在も無再発で経過している一例です。ただし治療効果には個人差があり、すべての患者さんに同様の結果が得られるとは限りません。
CATEGORY