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免疫療法

投稿日:2026.6.3/更新日:2026.10.21

ネオアンチゲンとは|がんワクチン治療の個別化標的を専門医が解説

この記事でわかること

  • ネオアンチゲンとは何か(がん細胞だけに存在する目印)
  • なぜネオアンチゲンが個別化がんワクチン治療の鍵とされるのか
  • 従来の標的(腫瘍関連抗原)との違い
  • 自己がん組織を用いた方法から、ネオアンチゲンへの進化
  • (専門)免疫寛容・腫瘍の多様性という観点からみた優位性

がん免疫療法の世界で、近年もっとも注目されている標的の一つが「ネオアンチゲン」です。患者さん一人ひとりのがんに固有の目印を狙う――この個別化のアプローチは、がんワクチン治療の最前線にあります。

本記事では、ネオアンチゲンとは何か、なぜ重要なのかを、前半はできるだけわかりやすく、後半は免疫学的な背景まで踏み込んで解説します。背景となる科学を理解したうえで治療を考えることが、納得のいく選択につながると、私たちは考えています。

ネオアンチゲンとは ― がん細胞だけに存在する「目印」

結論から言えば、ネオアンチゲンとは、がん細胞の遺伝子変異によって新たに生まれた、がん細胞だけに存在する目印(抗原)のことです。「neo(新しい)+antigen(抗原)」という名前のとおり、正常な細胞には存在しない、がんに固有の新しい目印です。

私たちの免疫は、体の中の細胞を「自分(自己)」か「異物(非自己)」かで見分けています。正常細胞は「自分」として見逃されますが、ネオアンチゲンを持つがん細胞は「異物」として認識されうる――ここに、ネオアンチゲンを治療に使う発想の原点があります。

なぜネオアンチゲンが、がんワクチン治療の鍵なのか

ネオアンチゲンが注目される理由は、大きく3つあります。

真の「非自己」 ― 免疫が攻撃しやすい

ネオアンチゲンは正常細胞に存在しないため、免疫が「敵」として認識しやすく、また正常組織を誤って攻撃する自己免疫のリスクが低いと考えられています。免疫にとって、攻撃すべき相手がはっきりしている標的なのです。

十人十色 ― 完全な個別化が可能

がんの遺伝子変異は、患者さん一人ひとり異なります。つまりネオアンチゲンは、その人のがんだけに合わせた「オーダーメイドの標的」です。同じがん種でも、Aさんとは異なる目印をBさんのがんは持っています。この個別性こそ、精密医療(プレシジョン・メディシン)の考え方そのものです。

多様な標的 ― がんの「逃げ道」を塞ぐ

がんは、一つの標的だけを攻撃するとそれを失って生き延びようとすることがあります(後半で詳しく解説します)。複数のネオアンチゲンを標的にすることで、がんの逃げ道を塞ぎやすくなると考えられています。

従来の標的(腫瘍関連抗原)との違い

ネオアンチゲンが登場する前、がんワクチンの主な標的は腫瘍関連抗原(TAA: Tumor-Associated Antigen)でした。WT1やサバイビンなどが代表例です。

TAAは「がんで多く現れる目印」ですが、実は正常な細胞にもわずかに存在します。そのため免疫が「完全な敵」とは認識しきれず、攻撃にブレーキがかかりやすいという課題がありました。

一方ネオアンチゲンは、がん細胞だけに存在する真の目印です。この「がんへの特異性の高さ」が、TAAとの決定的な違いであり、次世代の標的として期待される理由です。

自己がん組織から、ネオアンチゲンへ ― 院長の視点

当グループが東京大学医科学研究所で取り組んだ、自己がん組織を用いた樹状細胞ワクチン療法。がん組織そのものには、そのがんが持つ多様な目印が「まるごと」含まれているという強みがあります。理論上は免疫の働きを妨げる方向に作用しうる成分も含まれうると言われることもありますが、実際にこの方法で進行がんが奏効した経験が、私にはあります。自己がん組織を用いるアプローチそのものは、確かな意義を持つものだと考えています。

一方で、この方法には実用上の制約が一つあります。新鮮ながん組織を手術などで採取しなければ使えないという点です。そのため、適用できる患者さんが限られてしまいます。

この制約を乗り越えられるのが、ネオアンチゲンです。手術で組織を採取しなくても、遺伝子解析によって、そのがんに固有の標的を設計できる。がん組織に含まれる多様な情報の中から、免疫が攻撃すべき標的を「蒸留」して取り出し、さらに手術を必要としない形へ。自己がん組織が持つ「多様な目印を狙う」という発想を受け継ぎながら、より多くの患者さんに届けられる形へと進化させたもの――それがネオアンチゲンだと、私は考えています。

プレシジョンクリニック 東京院長 矢﨑 雄一郎

3つの標的(TAA・自己がん組織・ネオアンチゲン)の比較と使い分け

ここで強調しておきたいのは、「ネオアンチゲンが優れていて、TAAは古い」という単純な話ではないということです。むしろ、3つの標的はそれぞれに役割があり、使い分けることが理想だと、私たちは考えています。

イメージとしては、TAAは多くのがん細胞に共通する目印を「広く面で捉える」アプローチ、ネオアンチゲンはそのがんだけの目印を「精密に点で狙う」アプローチです。どちらが上ということではなく、面と点の両方から攻めることで、より多面的にがんを追い込むことができます。実際、当グループの患者さんの多くは、まずTAAを用いた樹状細胞ワクチン療法を行い、そのうえでネオアンチゲンを用いた樹状細胞ワクチン療法を重ねていく、という流れになります。

また、ネオアンチゲンは遺伝子解析によって同定しますが、変異の状況によっては十分に同定できない場合もあります。そうした場合に、TAAや自己がん組織というアプローチが活きてきます。だからこそ、3つすべてに意義があるのです。

比較の観点 腫瘍関連抗原(TAA) 自己がん組織 ネオアンチゲン
役割のイメージ 広く「面」で捉える(土台) 多様な目印をまるごと 精密に「点」で狙う
抗原の由来 正常にも存在する自己タンパクの過剰発現(WT1等) 患者自身のがん組織(多様な抗原を含む) がんの遺伝子変異から生じた新しい目印
がんへの特異性 中(正常細胞にも存在) 多様(がん由来だが雑多) 高(がんだけに存在)
免疫寛容の影響 受けやすい(高アビディティT細胞が減りやすい) 受ける成分も含みうる 受けにくい
個別化の度合い 共通標的(既製) 患者個別(その人の組織) 患者個別(その人の変異)
多面的な攻撃(抗原喪失逃避への強さ) 単一〜少数の標的 多様な抗原で対応 複数を設計可能
必要な検体・条件 不要(既知の標的) 手術等で新鮮ながん組織が必要 遺伝子解析データ(組織標本等が必要)
主な位置づけ がん抗原の土台・基盤 多様な目印を活かす 精密な個別化標的

※上表は一般的な特徴を整理したものです。実際の適応や治療設計は、がん種・進行度・遺伝子変異の状況・全身状態などにより、一人ひとり異なります。

プレシジョンクリニックの強み ― 全体像を理解した個別化設計

ここまで見てきたように、TAA・自己がん組織・ネオアンチゲンには、それぞれ異なる役割と意義があります。私たちプレシジョンクリニックグループの強みは、まさにこの全体像を理解したうえで、患者さま一人ひとりに最適な個別化された樹状細胞ワクチンを設計できることにあります。

強み① 3つの標的を理解し、使い分ける

「この患者さんには、まずTAAで土台を作り、その上にネオアンチゲンを重ねる」「変異の状況からネオアンチゲンの同定が難しいので、自己がん組織を活かす」――こうした判断を、全体像を理解したうえで行えること。これが、画一的ではない、本当の意味での個別化医療だと考えています。

強み② 遺伝子解析の専門体制

ネオアンチゲンの同定には、高度な遺伝子解析が欠かせません。当グループには、遺伝子解析を専門とするスタッフや医学博士が在籍し、遺伝子パネル検査から、それに基づくネオアンチゲン解析までを行う体制を整えています。ここまでの解析体制を持ったうえで樹状細胞ワクチン療法を行う医療機関は、多くはありません。遺伝子解析の専門性と、樹状細胞ワクチン療法の経験を併せ持つこと――これが、私たちの最大の強みの一つです。

For Further Reading

ここから先は、より専門的な内容です。「なぜネオアンチゲンが優れているのか」を、免疫学の視点から詳しく知りたい方へ。難しいと感じる場合は、上記までの内容で要点はおさえられています。

【専門】免疫寛容とアビディティ ― なぜTAAには限界があるのか

TAA(WT1、サバイビンなど)の多くは、正常細胞にも存在する「自己抗原」です。ここに、免疫学的な制約が生じます。

私たちの免疫は、自分自身の組織を攻撃しないよう、強く反応するT細胞を発生段階で除去する仕組み(免疫寛容)を持っています。具体的には、自己抗原に強く結合する(高アビディティの)T細胞は、胸腺などで除去されやすいことが知られています。実際、組織特異的な自己抗原に対して高いアビディティを持つCD8陽性T細胞が、中枢性・末梢性の寛容機構によって効率的に除去されることが報告されています(Zehn & Bevan, Immunity 2006)。

つまりTAAを標的にしても、最も強力に働けるはずの高アビディティT細胞は、すでに体内から減らされている可能性が高い。残るのは中〜低アビディティの、攻撃力が穏やかなT細胞に偏りやすいのです。

一方ネオアンチゲンは、胸腺で「自己」として提示されてこなかった新しい目印です。そのため、高アビディティのT細胞が残っている可能性が高く、免疫寛容の制約を受けにくいと考えられています。これが、ネオアンチゲンがTAAより有利とされる、免疫学的な根拠の一つです。

【専門】がん抗原の分類と「中枢寛容」

がんの目印(腫瘍抗原)は、その由来によって大きく分類されます。近年の総説では、おおむね次のように整理されています。

  • 腫瘍関連抗原(TAA):正常細胞にも存在するが、がんで過剰に現れる自己由来の抗原(WT1、サバイビン等)。中枢寛容の影響を受けやすい。
  • ウイルス由来抗原:がんの原因となるウイルス(HPV、EBV等)に由来する抗原。
  • 腫瘍特異抗原(TSA=ネオアンチゲン):がん細胞の変異から生じた、がんだけに存在する抗原。中枢寛容の制約をほとんど受けない。

この分類から見ても、ネオアンチゲンは「がんへの特異性が高く、免疫寛容の制約が小さい」という点で、理想的な標的に近いことがわかります。

【専門】腫瘍の多様性と「抗原喪失による逃避」

がんはひとかたまりに見えても、その内部は均一ではありません。同じ患者さんの同じ腫瘍でも、場所によって遺伝子変異や目印の出方が異なる細胞集団が混在しています。これを腫瘍ヘテロジェネイティ(腫瘍の多様性)と呼びます。

この多様性は、治療上の課題を生みます。たとえば、ある一つの目印だけを標的にした場合、その目印を持つ細胞は攻撃できても、その目印を持たない(あるいは少ない)細胞集団が生き残って増えてしまうことがあります。これが「抗原喪失による免疫逃避」です。単一の標的だけに頼ることの弱点と言えます。

だからこそ、複数の目印を同時に標的にすることが理にかなっています。多様な目印を含む自己がん組織を用いるアプローチや、複数のネオアンチゲンを組み合わせる戦略が、この「逃げ道を塞ぐ」という考え方に基づいています。

なお近年の研究では、抗原の中に、免疫を抑える方向に働く制御性T細胞(Treg)を誘導しうるエピトープが存在しうることも報告されています。実際、ある腫瘍関連抗原から、こうした制御性T細胞を誘導すると予測された配列を取り除くと、攻撃役のT細胞の反応が高まったという基礎研究もあります。多様な抗原の中から「免疫が真に攻撃すべき標的」を精密に選び抜くことの意義は、こうした観点からも研究が進んでいます。

【専門】ネオアンチゲンを「見つける」技術

患者さん一人ひとりのネオアンチゲンを同定するには、高度な技術が必要です。近年、これを支える技術が急速に進歩しました。

  • 次世代シーケンサー(NGS):がん細胞の遺伝子変異を網羅的に読み取る。
  • HLA結合予測:変異から生じたペプチドが、免疫に提示される目印になり得るかを計算で予測する。
  • 人工知能(AI):膨大な候補の中から、有効なネオアンチゲンを精度高く絞り込む。
  • 免疫ペプチドミクス:実際に細胞表面に提示されている目印を解析する。

これらの技術により、かつては困難だった「個別化された標的の設計」が、現実的なものになりつつあります。新型コロナウイルスワクチンで培われたmRNA技術の製造基盤も、個別化がんワクチンの実用化を後押ししています。

臨床で何が示され、何が示されなかったか ― 2026年時点の到達点

ここまでは「なぜネオアンチゲンが理にかなうのか」という理屈の話でした。では、実際の患者さんで何が確かめられたのでしょうか。2026年に入ってから、この分野には肯定的な報告と否定的な報告が同時に出ています。当院としては、その両方を並べて書くべきだと考えています。

個別化ネオアンチゲン療法とは:
患者さん一人の腫瘍を次世代シーケンサーで解析し、その人固有の変異から選んだ標的を、mRNA・ペプチド・樹状細胞などの形で投与する治療の総称です。標的の選び方は共通でも、運び手(プラットフォーム)は治療ごとに異なります。臨床試験の結果を読むときは、この運び手の違いを混同しないことが前提になります。

黒色腫:5年追跡でも再発リスクは約半分にとどまった

切除後の高リスク黒色腫を対象としたKEYNOTE-942試験(第IIb相、157例、2:1割付)の5年追跡が、2026年に Journal of Clinical Oncology に掲載されました。mRNA個別化ネオアンチゲン療法である intismeran autogene(旧称 mRNA-4157/V940)をペムブロリズマブに上乗せした群は、ペムブロリズマブ単独群に対し、無再発生存(RFS)のハザード比0.510(95%CI 0.294–0.887)、遠隔転移なし生存(DMFS)のハザード比0.411(95%CI 0.200–0.843)でした。4年時点のRFS率は72.4%対49.1%です。追跡期間中央値は60.3か月。全生存(OS)はハザード比0.471(95%CI 0.165–1.345)で、死亡は併用群107例中7例、単独群50例中7例と、判断するにはイベントが少なすぎます1。

この試験では、併用群でT細胞受容体(TCR)の新規クローンの増加が観察され、その増加は再発しなかった患者さんでより大きい傾向にありました。ただし論文自体が、増えたクローンがワクチンに搭載した個々のネオアンチゲンを本当に認識しているかは未確立だと明記しています。機序の裏づけとしては、まだ途中です。

第III相が初めて主要評価項目を達成した(数値はまだ出ていない)

2026年8月19日、同じ intismeran autogene の第III相 INTerpath-001(完全切除stage IIB–IV黒色腫、1,137例、2:1割付)が、主要評価項目のRFSと主要副次評価項目のDMFSの両方を達成したと発表されました。ネオアンチゲンワクチンの第III相が主要評価項目を達成したのは、これが初めてです。

ただし現時点で公表されているのは企業のプレスリリースのみで、ハザード比も信頼区間も出ていません。査読論文も学会発表もこれからです。当院は、数値を確認できるまでこの結果を治療の根拠としては扱いません2。ここは「達成した」という事実だけを書き、解釈は保留します。

大腸がんでは、第II相が中止された

同じ2026年8月28日、別の個別化mRNAワクチン autogene cevumeran の第II相 BNT122-01(NCT04486378)が中止されたことが公表されました。対象は術後にctDNAが陽性となったstage II高リスク/stage IIIの大腸がん、対照は経過観察です。2025年10月に無益性の境界を超えており、さらに直近の独立データモニタリング委員会の評価で、全生存に群間の数値的な不均衡が認められました。新たな安全性シグナルはありません3。

この試験は、ワクチンを単剤で、しかも免疫チェックポイント阻害薬なしで投与する設計でした。そこが読みどころだと考えています。「個別化という発想が否定された」と読むのは早すぎますし、「がん種が違うから関係ない」と切り捨てるのも誠実ではありません。ネオアンチゲンを狙えば必ず効く、という単純な話ではない ― 当院はそう受け止めています。なお、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法を併用する膵がんの試験(IMcode003、NCT05968326)は継続中です。

膵がん:誘導されたT細胞は、年単位で残りうる

膵管腺がん(PDAC)の第I相では、追跡期間中央値3.2年の時点で、ワクチン誘導T細胞が確認できた8例のRFS中央値は未到達、確認できなかった8例は13.4か月でした(P=0.007)。誘導されたCD8陽性T細胞クローンの推定寿命は平均7.7年と算出されています4。16例の第I相で、反応の有無による事後的な比較ですから、これだけで有効性を語ることはできません。それでも「一度立ち上がったネオアンチゲン特異的T細胞は年単位で残りうる」という前提には、一次データがついたことになります。

試験 対象・デザイン 主な結果 公表の段階
KEYNOTE-942 切除黒色腫/第IIb相・157例/ICI併用 RFS HR 0.510、DMFS HR 0.411、OSは未成熟 査読論文(JCO 2026)
INTerpath-001 切除黒色腫/第III相・1,137例/ICI併用 RFS・DMFSを達成。数値は未公表 プレスリリースのみ
BNT122-01 ctDNA陽性大腸がん/第II相/ワクチン単剤 無益性境界を超え中止。OSに数値的不均衡 企業発表(2026年8月)
PDAC第I相 切除膵がん/第I相・16例/ICI・化学療法併用 T細胞誘導例でRFS延長(P=0.007)。事後比較 査読論文(Nature 2025)

※ICI=免疫チェックポイント阻害薬。上表は2026年9月時点で公表されている情報を整理したものです。HR=ハザード比。

ここから読み取れること ― 限界と批判的視点

4つの試験を並べると、輪郭が見えてきます。良い結果が出ているのは、いずれも免疫チェックポイント阻害薬と併用した設計です。中止になったのは、ワクチンを単剤で使った設計でした。ネオアンチゲンで標的を精密にしても、その標的を攻撃するT細胞にブレーキがかかったままなら働かない ― この解釈は当院の推論であり、試験間の直接比較で検証されたものではありません。ただ、当グループが樹状細胞ワクチンを単独で完結させず、免疫チェックポイント阻害薬や局所療法と組み合わせる革新的複合がん免疫療法(iCCI/SynerTri®)という形を取ってきた理由とは、方向が一致します。

もう一点。ここで挙げた試験はすべてmRNAあるいはmRNA-リポプレックスを運び手にしたもので、当グループが行う樹状細胞ワクチン療法とはプラットフォームが異なります。標的の考え方は共有していても、これらの数値をそのまま当院の治療成績として読むことはできません。樹状細胞を運び手とした個別化ネオアンチゲン療法について、同水準のランダム化データはまだ存在しない ― これが2026年9月時点の正確な現状です。

さらに、対象はいずれも切除可能な病期です。腫瘍量が多く、腫瘍微小環境がすでに免疫を抑え込んでいる進行期で同じことが起きるかは、別の問いとして残ります。

当院の実務でも、壁はそこにあります。遺伝子パネルの結果からネオアンチゲン候補を絞る工程 ― 組織量、腫瘍含有率、HLAタイピング、候補が0件に終わらないかの確認 ― は、すべて行っています。それでも実際に詰まるのは、その手前の「組織検体の確保」です。上の試験がいずれも切除検体を前提にしていることと、この実感は重なります(プレシジョンクリニック東京院長・矢﨑 雄一郎)。

プレシジョンクリニックの取り組み

当グループでは、ネオアンチゲンをはじめとする標的を、樹状細胞ワクチン療法に活用しています。さらに、ワクチン単独ではなく、免疫チェックポイント阻害薬や局所療法と組み合わせる複合的なアプローチ――革新的複合がん免疫療法(iCCI/SynerTri®)――に取り組んでいます。ゲノム解析に基づき、患者さん一人ひとりに合わせた治療設計を行うことを目指しています。

ネオアンチゲンという言葉を調べている方へ
ご自身のがんに合わせたワクチンを、当院に相談してみませんか?

ネオアンチゲンを標的にするには、遺伝子解析でがんの目印を特定する必要があります。
当院では遺伝子解析と樹状細胞ワクチン療法を組み合わせて個別化します。
遺伝子検査の結果と治療歴をうかがったうえで、ひとつずつご説明します。ご相談は無料です。

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    当院の実例

    WT1・MUC1を標的とした樹状細胞ワクチンの局所投与のみで、再発スキルス胃がんが病理検査上も消失した80代男性(国際査読誌掲載)

    重度の肺気腫で手術ができず、抗がん剤も副作用で続けられませんでした。腫瘍関連抗原(TAA)であるWT1・MUC1を標的にした樹状細胞ワクチンを、内視鏡で胃の病変に直接7回投与。1か月後にがんは縮小し、病理検査でスキルス胃がんの細胞は消失、30か月以上の寛解を維持しました。本文で述べた「TAAで面を押さえる」土台のワクチンが、条件が整えば大きく働くことを示す症例で、World Journal of Surgical Oncology(2014年)に掲載されています。

    症例の詳細を見る →

    ※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。

    よくある質問(FAQ)

    Q. ネオアンチゲンとは何ですか?

    がん細胞の遺伝子変異によって新たに生まれた、がん細胞だけに存在する目印(抗原)です。正常細胞には存在しないため免疫が「異物」として認識しやすく、患者さん一人ひとりのがんに固有である点が特徴です。

    Q. ネオアンチゲンと腫瘍関連抗原(TAA)はどう違いますか?

    TAA(WT1など)は正常細胞にもわずかに存在する自己由来の抗原で、免疫がブレーキ(免疫寛容)をかけやすい性質があります。一方ネオアンチゲンはがん細胞だけに存在するため、免疫が攻撃しやすく、免疫寛容の制約を受けにくいと考えられています。

    Q. なぜ複数の標的を狙うのですか?

    がんは内部に多様な細胞集団が混在しており(腫瘍ヘテロジェネイティ)、一つの目印だけを攻撃すると、その目印を持たない細胞が生き残ってしまうことがあります(抗原喪失による逃避)。複数の標的を狙うことで、がんの逃げ道を塞ぎやすくなると考えられています。

    Q. ネオアンチゲンを使った治療は誰でも受けられますか?

    適応は、がん種・進行度・遺伝子変異の状況・全身状態などにより異なります。また、個別化のための解析には費用と時間がかかります。詳細は個別の状況により異なりますので、無料相談でご確認ください。

    主な参考文献

    1. Khattak A, Carlino MS, Meniawy T, et al. Intismeran autogene plus pembrolizumab versus pembrolizumab alone in high-risk resected melanoma: 5-year update of the randomized phase IIb KEYNOTE-942 study. J Clin Oncol 2026;44(26):2482-2489. DOI: 10.1200/JCO-26-00835(試験登録番号 NCT03897881)
    2. Merck & Co., Moderna. Phase 3 INTerpath-001 trial of intismeran autogene plus pembrolizumab met endpoints of RFS and DMFS in patients with completely resected stage IIB-IV melanoma. 企業発表、2026年8月19日(試験登録番号 NCT05933577)。※査読論文・学会発表は未公表
    3. BioNTech. Provides update on phase 2 clinical trial of autogene cevumeran in resected colorectal cancer. 企業発表、2026年8月28日(試験登録番号 NCT04486378)。※査読論文は未公表
    4. Sethna Z, Guasp P, Reiche C, et al. RNA neoantigen vaccines prime long-lived CD8+ T cells in pancreatic cancer. Nature 2025;639:1042-1051. DOI: 10.1038/s41586-024-08508-4
    5. Zehn D, Bevan MJ. T cells with low avidity for a tissue-restricted antigen routinely evade central and peripheral tolerance and cause autoimmunity. Immunity 2006;25(2):261-270. DOI: 10.1016/j.immuni.2006.06.009
    6. Peri A, Salomon N, Wolf Y, Kreiter S, Diken M, Samuels Y. The landscape of T cell antigens for cancer immunotherapy. Nat Cancer 2023;4:937-954. DOI: 10.1038/s43018-023-00588-x
    7. Wu AC, Nakamura Y, Kiyotani K. Advances in neoantigen-based cancer vaccines. Cancers 2026;18(1):144. DOI: 10.3390/cancers18010144
    8. Haanen JB, Schumacher TN, Kagan JC, Fritsch EF, Wu CJ. Clinical development of cancer vaccines. Nat Med 2026;32(3):828-840. DOI: 10.1038/s41591-026-04241-9
    9. Zhao X, Pan X, Wang Y, Zhang Y. Targeting neoantigens for cancer immunotherapy. Biomark Res 2021;9:61. DOI: 10.1186/s40364-021-00315-7

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    矢﨑雄一郎 プレシジョンクリニック東京院長

    【監修者】矢﨑 雄一郎

    東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事。その後、東京大学医科学研究所にて樹状細胞ワクチン療法の臨床研究に従事したのち、現在はプレシジョンクリニック東京院長として活躍中。専門分野は一般外科及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

    専門分野:
    一般外科・消化器外科

    著書:
    『免疫力をあなどるな!』

    監修医師:矢﨑 雄一郎医師

    監修医師

    矢﨑 雄一郎医師

    免疫療法・研究開発

    東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

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