投稿日:2026.9.5/更新日:2026.11.5
この記事でわかること
肺がんと診断されたとき、治療法の多さや通院にかかる日々の負担に不安を感じる方は少なくありません。個別化医療が進む現代では、遺伝子の特徴に合わせた的確な治療選択と、日常生活を維持するための工夫が同時に求められています。今月発表された新たな治療薬の承認や投与方法の変化は、患者さまの生活の質を支える大きな力になります。日々の診療現場から見えてくる最新の動向を分かりやすくお伝えします。
バイエル薬品が開発したセバベルチニブ水和物(製品名ヒアニュオ)が、HER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がんの治療薬として国内で製造販売承認を取得しました。
これまでHER2変異を持つ非小細胞肺がんに対しては、一次治療で使える特異的な分子標的薬の選択肢が限られていました。今回の承認により、診断後すぐにこの変異を狙い撃ちする経口治療薬を選択できるようになります。これはすでに保険診療の枠組みで今すぐ使える治療選択肢として臨床現場に導入されます。
HER2遺伝子変異は、非小細胞肺がん全体の数パーセント程度に認められる希少な変化です。割合としては小さく見えますが、患者さまお一人にとっては治療方針を左右する決定的な情報となります。腫瘍組織や血液を用いたゲノム解析によって変異の有無を事前に突き止める重要性が、今回の承認で一段と増しました。
私たちの外来でも、患者さまから遺伝子検査の結果について質問を受ける機会が急速に増えています。自分のがんに効果が期待できる標的薬があるのかを知ることは、前向きに治療へ向き合う第一歩となります。遺伝子検査の実施時期や適応について疑問がある場合は、遠慮なく主治医や当グループにご相談ください。
抗がん剤や抗体医薬品の投与経路を従来の点滴から皮下注射へと変更する技術が広がり、病院での滞在時間が短縮されています。
これまでの点滴投与では、数時間にわたってベッドの上で安静を保つ必要がありました。皮下注射製剤が実用化されたことで、投与時間はわずか数分から十数分程度へと大幅に縮まります。この投与法は一部の薬剤ですでに保険診療として実際の外来診療で使用可能です。
長時間の点滴は血管への負担が大きく、通院日には丸一日がつぶれてしまうという悩みが患者さまから寄せられていました。治療時間が短くなれば、仕事への復帰や家事の継続が格段にしやすくなります。治療を受けながら普段通りの生活を維持できる環境は、患者さまの心身の健康にとって代えがたい価値を持ちます。
当院でも患者さまから、通院にかかる時間の長さが精神的な重荷になっているという相談を頻繁に受けます。投与方法の工夫によって日常生活の自由度を高めることは、がん診療の重要な課題です。ご自身の治療薬に皮下注の選択肢があるかどうか、担当の医療機関で確認してみるとよいでしょう。
厚生労働省は2026年8月25日付で、制吐薬ドンペリドンやメトクロプラミド、一部の免疫チェックポイント阻害薬などの添付文書改訂を指示しました。
がん薬物療法に伴う吐き気止めとして広く使われてきたドンペリドンなどについて、国内外の疫学調査をもとに不整脈などのリスクが重大な副作用として追記されました。また免疫チェックポイント阻害薬においても、免疫反応に伴う副作用の項目が最新の知見に基づいて見直されています。今すぐ医療現場の処方管理に反映される決定です。
抗がん剤治療を安心して続けるためには、副作用を抑える支持療法が欠かせません。吐き気止めは患者さまにとって身近な薬ですが、心臓への影響など隠れたリスクに目を配る必要があります。薬の安全性情報が常に更新されることで、より安全で確実な治療管理が実現します。
外来でも患者さまから、処方された吐き気止めの変更について理由を尋ねられることがあります。処方内容の細かな変更は、患者さまの安全を最優先に守るための医療安全対策の一環です。服用中のお薬に関して違和感や動悸などを感じた際には、すぐに主治医や当グループにお知らせください。
自覚症状がない段階で検診などを契機に肺の異常を指摘された場合、放置せずに早期の精密検査を受けることが治癒への鍵となります。
奈良県総合医療センターなどの専門機関が発信しているように、肺がんは初期段階では咳や息切れといった症状がほとんど現れません。健康診断の胸部エックス線検査やCT検査で影が見つかった段階で受診することが、根治を目指す治療につながります。これは将来の研究ではなく、現在の医療で直ちに行動に移すべき原則です。
肺がんは進行すると呼吸困難や痛みが出現しますが、その時期にはすでに局所進行や転移をきたしている事例が少なくありません。早期に発見できれば、外科的切除や低侵襲な定位放射線治療によって治癒を目指せる可能性があります。微小な病変を早い段階で見逃さずに捉える診断技術の活用が不可欠です。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種が肺がんです。当グループでは早期の診断から進行期のゲノム診療まで、数多くの実績を積み上げています。胸部検診で再検査を指示された方やご家族に肺がんの既往がある方は、精密検査の必要性についてお気軽にご相談ください。
当院の実例
胸膜・肝・骨転移を伴う肺がんステージ4に、抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を並行し、原発巣が縮小して胸水と肝転移が消失した60代男性
手術はできないと言われ抗がん剤を開始し、並行して樹状細胞ワクチン療法を始めました。肺がんは縮小してPETで活動性のない瘢痕組織と評価され、胸水と肝転移は消失、リンパ節転移と骨転移も縮小しました。抗がん剤の開始と同時に免疫療法を重ねる、当院の基本の組み合わせです。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
2026年8月は、HER2変異陽性の非小細胞肺がんに対するヒアニュオの承認や、皮下注射による治療負担軽減など、実践的な進展が見られました。同時に、吐き気止めなどの支持療法における安全性情報の改訂は、日々の治療をより確実なものにする契機となります。
プレシジョンクリニックグループでは、ゲノム解析に基づいた個別化医療の提供に全力を注いでいます。腫瘍の遺伝子変化を正確に捉え、患者さま一人ひとりの生活環境に寄り添った最適な治療計画を提案することを大切にしています。どのような段階であっても諦めず、ご自身の病状に適した選択肢についていつでも当グループへご相談ください。
HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんでは、2026年に国内承認された経口薬ヒアニュオ(セバベルチニブ)に加え、抗体薬物複合体エンハーツが使えます。まず遺伝子検査でHER2変異の有無を確かめることが出発点です。
皮下注射への切り替えは、血中濃度と効果が点滴と同等であることを確認したうえで承認されています。投与時間が短くなり通院負担が減る一方、注射部位の反応など皮下注射特有の副作用には注意が必要です。
組み合わせられます。当院では抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬を主治医の治療として続けながら、樹状細胞ワクチン療法を並行して行う設計を基本にしています。仕事を続けながら6年経過している方もいます。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年8月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。