投稿日:2026.9.5/更新日:2026.11.5
この記事でわかること
乳房に生じる悪性腫瘍の治療は、個々の状態に合わせた精密な判断が求められます。手術後の抗がん剤が必要かどうか、どの薬をどの順番で使うべきか、迷う方は少なくありません。納得のいく治療を選ぶためには、常に更新される医学的根拠を知ることが支えになります。今月発表された新たな知見から、日々の選択に直結する最新情報をお届けします。
ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の早期乳がんにおいて、卵巣予備能を示すAMH値が抗がん剤の追加効果を予測する指標になると分かりました。
これは国際的な第3相RxPONDER試験の付随研究として報告された成果です。55歳未満でオンコタイプDXの再発スコアが25以下の患者さまを対象に分析が行われました。その結果、超高感度測定でAMHが低値だった方では、化学療法の上乗せ効果がほとんど認められませんでした。
化学療法がもたらす再発抑制の一部は、卵巣機能が抑えられることで生じています。もともと卵巣機能が低下している方では、抗がん剤を追加する利点が乏しい可能性が示されました。本研究はバイオマーカー解析の段階であり、明日から直ちに保険適用されるわけではありません。
しかし、抗がん剤を回避できる基準がより精密になる未来を示しています。外来でも患者さまから「抗がん剤を本当に受けるべきか悩む」と相談される機会は多々あります。不安が大きいときは、ご自身の再発リスクと治療のメリットについて、主治医や当グループにご相談ください。
抗体薬物複合体(ADC)などの新薬が相次いで登場し、HER2陽性乳がんの薬物療法は組み立て方が大きく変化しています。
かつては抗HER2抗体と抗がん剤の組み合わせが標準でした。現在はトラスツズマブ デルクステカンなどのADCが加わり、高い治療成績を収めています。昭和医科大学先端がん治療研究所の鶴谷純司教授らの指摘にあるように、薬の選択肢が増えたからこそ、使う順序の見極めが問われます。
今あるエビデンスを慎重に吟味しながら、ガイドラインに基づいて患者さま一人ひとりに適した順序を組み立てる必要があります。この治療選択は、現在の日常臨床においてすでに直面しているテーマです。病状の進行度合いや過去の治療歴によって、優先すべき薬剤は異なります。
私たちの外来でも「新しい分子標的薬をどの段階で使うべきか」という声をよく伺います。薬剤の切り替え時期や副作用対策について気になる点があれば、主治医と治療計画をよく話し合うことが大切です。プレシジョンクリニックグループでもセカンドオピニオンを含めた相談をお受けしています。
治療後のわずかながん細胞を検出する微小残存病変(MRD)の測定と、AIによる画像診断支援が将来の再発予防を変えようとしています。
愛知県がんセンターの岩田広治医師らが振り返るように、乳癌診療は局所治療から全身療法、そして分子レベルの個別化へと発展してきました。リキッドバイオプシーを用いたMRD検査は、画像では捉えられない極小の再発リスクを早期に捉える技術として研究が進んでいます。
将来的にMRDが実用化されれば、不要な長期内分泌療法を終了したり、早期に治療を強化したりすることが可能になります。画像診断へのAI導入も、微細な病変の見落としを防ぎ、診断精度を底上げする手法として期待されています。これらは臨床導入へ向けた開発パイプラインの段階にあります。
検査技術の進化により、腫瘍微小環境(TME)の変化を捉えた最適な一手を選択できるようになりつつあります。最新の検査やゲノム診断の可能性について関心がある方は、担当の医療機関や当グループへ気軽にお尋ねください。
島根県の大田市立病院が最新型マンモグラフィを導入し、乳房がん検診の受診率向上と早期発見を目指す取り組みを開始しました。
今回導入された装置は、撮影時の乳房への圧迫痛を和らげる機構を備えています。さらに、被ばく線量を抑えながら高精細な画像を撮影できる設計が施されています。痛みが怖くて検診を避けていた方にとって、受診のハードルを下げる身近な進歩です。
検査機器の更新は、地域の医療機関ですぐに恩恵を受けられる具体的な変化といえます。乳房がんは早期に発見できれば、乳房温存手術の選択肢が広がり、薬物療法の負担を軽減できる可能性が高まります。定期的な検診受診について迷われている場合は、お近くの検診センターや主治医へ相談してみましょう。
当院の実例
HER2陽性乳がんステージ4(多発肝転移)に抗HER2療法と樹状細胞ワクチン療法を併用し、原発巣・肝転移が著明に縮小して診断から5年経過した40代女性
主治医から厳しい状況と説明された多発肝転移に、抗HER2療法(ハーセプチン+パージェタ)を開始し、まもなく樹状細胞ワクチン療法を併用。CTで原発巣と肝転移が著明に縮小しました。その後は抗がん剤を減らし、抗HER2療法を終えてホルモン療法へと段階的に治療を軽くしながら、診断から5年、元気に過ごされています。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
乳がん診療は、個々の患者さまの状態に応じた個別化医療が急速に進んでいます。ホルモン陽性乳癌における治療の最適化から、HER2陽性例での薬剤選択、将来のMRD活用まで、治療選択肢は広がり続けています。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種が乳がんです。当グループでは、がんゲノム解析や腫瘍微小環境を考慮した総合的なアプローチの実績を積み上げています。一人ひとりの遺伝子情報や病状に寄り添い、最適な治療の選択肢をご提案する姿勢を大切にしています。治療方針やセカンドオピニオンについて、いつでもお気軽にご相談ください。
RxPONDER試験の付随研究では、55歳未満・再発スコア25以下でAMHが低値の方は化学療法の上乗せ効果がほとんど見られませんでした。ただし一つの解析結果であり、最終判断は年齢・再発スコア・ご本人の希望を含めて主治医と決めるものです。
エンハーツなどの抗体薬物複合体の登場で、抗HER2療法の順番は個別化が進んでいます。転移の部位や前治療への反応で選択が変わるため、遺伝子・受容体の情報を整理したうえで検討します。
血液中のがん由来DNA(ctDNA)で微小残存病変(MRD)を調べる検査は、画像より早く再発の兆しを捉える可能性があります。当院でもctDNA・MRD検査を行い、再発予防の免疫療法の設計に使っています。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年8月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。