投稿日:2026.10.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
膵臓がんと診断されたとき、これからの治療選択肢や日々の体調変化に不安を抱く方は少なくありません。病気の進行が早いとされる一方で、新しい治療薬の開発や早期診断の仕組み作りは着実に前進しています。今月届いた基礎研究や臨床試験の成果を整理し、日々の生活や主治医との対話に役立つ具体的な知識をお伝えします。
米国食品医薬品局(FDA)は2026年8月、新規のRAS阻害薬ダラクソンラシブを承認しました。国際共同第3相試験であるRASolute 302試験の良好なデータが評価された結果です。これまで治療が難しかったKRAS変異を持つ膵癌に対して、新たな分子標的治療の道が開かれました。
私たちの外来でも「海外で承認された新しい薬は日本でいつ使えますか」という質問をよく受けます。ダラクソンラシブは日本では未承認で、承認申請の時期も公表されていません(2026年11月時点)。今すぐ日本の保険診療で使えるわけではありません。
膵がんの約9割にはKRAS遺伝子の変異が認められます。従来は薬が結合しにくい標的とされてきましたが、創薬技術の進化により次々と新しい阻害薬が登場しています。TME(腫瘍微小環境)に阻まれて薬剤が届きにくい課題に対しても、併用療法の治験が複数走っています。遺伝子パネル検査を受けた経験がある方は、ご自身のKRAS変異の型について主治医に確認してみるとよいでしょう。
ダラクソンラシブの効果・副作用・国内の治験・日本で使えるまでの見通しは、ダラクソンラシブ(ラソンク)とはで詳しく解説しています。
KRAS変異が分かっている方の治療相談は、RAS変異がん専門外来(RAS外来)で受け付けています。
早期発見の手がかりとして注目されるのが、糖尿病と膵がんの関係です。東北大学の正宗淳教授らの研究グループは、糖尿病を合併した膵がん患者2,291例の大規模調査結果を公表しました。血糖コントロールの急激な悪化や、明らかな理由のない体重減少が受診の契機になった事例が多く報告されています。
糖尿病治療中の患者さまにおいて、食事療法や運動療法を変えていないにもかかわらずHbA1cが急上昇した場合は注意が必要です。今回の研究では、血糖悪化の初期段階で腹部超音波や造影CT検査を行った患者群において、切除可能な段階で発見される割合が高い傾向が示されました。体重が数カ月で2〜3キロ落ちた変化も見逃せないサインです。
当グループの初診外来でも、糖尿病の治療中に血糖値が乱れ、精査で膵臓の病変が見つかった患者さまが多く来院されます。糖尿病は単なる生活習慣病として片付けられがちですが、膵臓の異変を知らせる警告信号にもなり得ます。通院中の糖尿病専門医やかかりつけ医に対して、最近の体重推移を率直に共有し、必要に応じた画像検査を相談することをお勧めします。
CareNetが報じた全国疫学調査によると、国内の慢性膵炎患者数は前回の調査から約3割増加しました。さらに慢性膵炎の約半数が糖尿病を合併している実態が明らかになっています。慢性膵炎は膵がんの独立した危険因子であり、罹患期間が長くなるほどがんの合併リスクが高まることが知られています。
膵臓の慢性的な炎症は、組織の線維化を進めてがん細胞の発生を促す素地を作ります。持続的な炎症環境そのものが発がんのリスクを高める要因となります。今回の調査結果は、慢性膵炎と診断されている方が定期的な画像スクリーニングを途切れさせないことの大切さを浮き彫りにしました。超音波内視鏡(EUS)やMRIを用いたMRCP検査などを定期的に組み合わせる手順が推奨されます。
みぞおちの鈍い痛みや背中の張り、脂肪便などの自覚症状がある場合は、我慢せずに消化器内科を受診してください。日々の生活で禁酒や禁煙を徹底することは、炎症の再燃を防ぐだけでなく、将来のがん化リスクを抑えるためにも直結します。ご自身の膵臓の状態や検査の間隔について、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
医療情報サイトm3.comが実施した医師向け意識調査において、今後数年で診療が大きく変わる消化器がんとして膵がんを挙げる声が目立ちました。背景には罹患数の増加と予後の厳しさがあり、治療のブレイクスルーを待ち望む医療現場の切実な思いがあります。単一の抗がん剤に頼る時代から、個々の患者さまの腫瘍特性に合わせた個別化医療へと舵が切られています。
現在、国内外のバイオベンチャーや製薬企業が、KRAS G12D阻害薬やmRNAがんワクチン、新規免疫療法の開発を活発に進めています。免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいとされた膵癌でも、腸内細菌叢の調整や微小環境の改変を組み合わせた新しい臨床試験が始まっています。こうした創薬パイプラインの進展は、数年後の実臨床を塗り替える可能性を秘めています。
最新の知見を実際の治療にどう反映させるかは、患者さま一人ひとりの病期や体力によって異なります。まずは主治医と現在の治療計画をしっかりと共有したうえで、治験や先進的な検査の適応があるかを定期的に見直す姿勢が大切です。セカンドオピニオンを活用して別の視点を取り入れることも、納得のいく治療選択につながる有力な手段となります。
膵臓がんの領域では、新規RAS阻害薬の登場や糖尿病を契機とした早期発見の仕組み化など、明るい兆しが着実に増えています。慢性膵炎をはじめとする基礎疾患の管理も含め、日々の些細な体調変化を見落とさない医療連携がより重要になってきました。
プレシジョンクリニックグループは創業以来、膵臓がんの個別化医療に最も注力してきました。当グループでは網羅的ながんゲノム解析を実施し、一人ひとりの遺伝子変異や腫瘍微小環境に合わせた最適な治療アプローチを追求しています。
標準治療の継続に悩まれている方や、新たな選択肢をお探しの方は、プレシジョンクリニックグループの膵臓がん治療についてをご覧いただき、いつでもお気軽にご相談ください。
食事や運動を変えていないのにHbA1cが急に上がったときや、数か月で2〜3kg体重が落ちたときは、膵臓の検査を相談する目安になります。東北大学の2,291例の調査では、血糖悪化の早い段階で腹部超音波や造影CTを受けた方に、切除できる段階で見つかる割合が高い傾向がありました。かかりつけ医に体重の推移を伝え、画像検査を相談してください。
慢性膵炎は膵臓がんの独立した危険因子で、罹患期間が長いほどリスクが高まります。国内の慢性膵炎の患者さまは5年で約3割増え、約半数が糖尿病を合併しています。超音波内視鏡(EUS)やMRCPなどの画像検査を定期的に続けることと、禁酒・禁煙が大切です。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年9月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年10月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。