投稿日:2026.6.25/更新日:2026.10.29
この記事でわかること
オシメルチニブ(商品名:タグリッソ®)は、EGFR遺伝子に変異のある肺がんの最初の治療で使われる分子標的薬です。よく効く薬ですが、飲み続けるうちに、がんが薬の効かない形に変わっていくことがあります。これを耐性と呼びます。
結論から申し上げます。効かなくなる理由は一つではありません。がん細胞に起きる変化は人によって違い、同じ人の中でも場所によって違うことがあります。次の治療を決める前に、いま何が起きているかを検査で確かめることが大切です。
この記事では、ELIOS研究(Piotrowska Z ほか, Cancer Discov 2026)の数字をもとに、耐性の仕組み、調べ方、国内の次の治療、当院の考え方を順にご説明します。
ELIOSは、オシメルチニブを最初の治療として使った方を対象に、治療の前と、効かなくなったあとの腫瘍の組織を比べた研究です。がん細胞にどんな変化が起きたかを、遺伝子の検査で調べました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | EGFR変異のある進行非小細胞肺がんで、オシメルチニブを最初の治療として受けた方 |
| 登録した人数 | 154名 |
| 解析できた人数 | 治療前と進行後の組織がそろい、遺伝子の検査結果が出た52名 |
| 施設 | 米国、韓国、マレーシア、イタリア、スペインなどの多施設 |
| 研究の種類 | 第Ⅱ相の分子解析研究。薬の効果を比べた試験ではありません |
出典:Piotrowska Z ほか, Cancer Discov 2026/ClinicalTrials.gov NCT03239340
52名のうち、進行したときに新しく見つかった変化で多かったものは、次の4つでした。
| 見つかった変化 | 割合 |
|---|---|
| MET増幅 | 17% |
| CDKN2A/CDKN2B欠失 | 15% |
| MTAP欠失 | 13% |
| EGFR C797S変異 | 13% |
出典:Piotrowska Z ほか, Cancer Discov 2026(対の組織で結果が出た52名)
MET増幅は、EGFRとは別の増殖の信号が増える変化です。EGFR C797S変異は、薬が結びつくEGFRの場所そのものが変わる変化です。どちらも、オシメルチニブが効きにくくなる原因として知られています。
大切なのは、原因が一つに集中していなかったことです。いちばん多いMET増幅でも、52名のうち17%です。著者らは、耐性の仕組みは人によって、また同じ人の中でもばらばらでありうると書いています。
遺伝子だけでなく、タンパクも調べました。治療前32名・進行後18名の解析です。TROP2というタンパクは、遺伝子の変化があってもなくても、治療前も進行後も高く出ていました。TROP2をねらう薬の研究・開発は、いま進められています。
著者らは、三つのことを挙げています。分子標的薬で進行した方から組織を採るのは難しいこと。耐性の仕組みは人により、同じ人の中でもばらばらでありうること。だから、複数の経路に効く治療戦略が要ること。
耐性の原因を知るには、がんが進行したときに、もう一度検査をします。方法は二つあります。腫瘍の組織を採る生検と、血液に流れ出たがんの遺伝子を調べる血液検査です。
ELIOSでは、登録した154名のうち、治療前と進行後の組織がそろって結果が出たのは52名でした。進行したあとに組織を採るのは、それだけ難しいということです。
一方、進行後に組織と血液の両方がそろった51名では、82%に耐性に関わる可能性のある変化が見つかりました。著者らは、組織の検査と血液の検査は互いに補い合うと結論しています(Piotrowska Z ほか, Cancer Discov 2026)。
どの検査を受けられるかは、主治医にご相談ください。
オシメルチニブが効かなくなったあとの治療は、耐性の原因、がんの広がり、体の状態をもとに、主治医と決めます。国内で使える主な選択肢は次のとおりです。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| プラチナ製剤を含む抗がん剤 | 従来からの基本となる治療です |
| アミバンタマブ(商品名:ライブリバント®)+カルボプラチン+ペメトレキセド | 2025年5月に、オシメルチニブで進行した方への使い方が国内で承認されました |
| 耐性の原因をねらう薬 | METやC797S、TROP2をねらう薬の研究・開発が進んでいます。使えるかどうかは主治医にご確認ください |
出典:ジョンソン・エンド・ジョンソン 2025年5月19日発表
アミバンタマブの併用の根拠は、MARIPOSA-2という試験です。オシメルチニブで進行した方で、抗がん剤だけの治療と比べて、進行または死亡の危険を52%減らしました。進行せずに過ごせた期間の中央値は、6.3か月と4.2か月でした(ジョンソン・エンド・ジョンソン 2025年5月19日発表)。
効き方には個人差があり、副作用もあります。どの治療が合うかは、主治医とよく相談して決めてください。
薬の効果を比べた試験ではありません。ELIOSは、耐性の仕組みを調べる第Ⅱ相の分子解析研究です。どの治療がよいかを示したものではありません。
割合は52名の中の数字です。登録は154名ですが、対の組織で結果が出たのは52名でした。タンパクの解析はさらに少なく、治療前32名・進行後18名です。
開発企業の研究者が著者に入っています。オシメルチニブを開発したアストラゼネカの研究者です。
続報は、まだありません。PubMedでELIOSと試験番号を検索したところ、この論文1本だけでした(2026年10月19日に確認)。
それでも、この研究には意味があります。同じ人の治療前と進行後の組織を比べ、耐性の原因が一つではないことを示したからです。
分子標的薬は、がんの増殖の信号を一か所でふさぐ薬です。ところが、がんは変わり続けます。一か所をふさぐと、別の経路が開くことがあります。ELIOSで耐性の原因が人によってばらばらだったのは、その表れだと私たちは受け止めています。
著者らは、複数の経路に効く治療戦略が要ると書いています。当院は、そこに免疫という別の力を重ねる設計をしています。薬が一つの経路をふさいでいるあいだに、免疫ががんを見つけて攻撃する力を育てる。土台は、抗がん剤などの標準治療です。そのうえに、樹状細胞ワクチン療法や免疫チェックポイント阻害薬をどの時期に重ねるかを、患者さまごとに考えます。この考え方をSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)と呼んでいます。
分子標的薬や抗がん剤で治療中の方も、主治医のもとで治療を続けたまま、当院にご相談いただけます。免疫療法を重ねられるかどうかは、画像と検査結果を拝見してから判断します。
ただし、免疫療法が耐性を乗りこえると証明されたわけではありません。この研究の結果を当院の治療にそのままあてはめられるわけでもありません。
まず、主治医と次の標準治療を決めてください。オシメルチニブのあとには、国内で承認された治療があります。当院の免疫療法は、それに重ねるものです。
当院の免疫療法は自由診療です。標準治療の代わりになるものではありません。効果には個人差があり、効果が得られない場合もあります。
全身状態によっては、お受けできない場合があります。画像と検査結果を拝見してから、ご提案できるかどうかを判断します。
がん細胞に新しい変化が起きるためです。ELIOS研究では、進行したときに次の変化が見つかりました。MET増幅17%、CDKN2A/CDKN2B欠失15%、MTAP欠失13%、EGFR C797S変異13%です。原因は一つではなく、人によって違います。どの変化が起きているかは、検査で調べます。
まず主治医にご相談ください。腫瘍の組織を採る生検と、血液でがんの遺伝子を調べる検査があります。ELIOS研究では、両方がそろった方の82%で、耐性に関わる可能性のある変化が見つかりました。組織が採りにくいときは、血液の検査が補います。
基本は、プラチナ製剤を含む抗がん剤です。2025年5月には、アミバンタマブ(商品名:ライブリバント®)と抗がん剤の併用が国内で承認されました。オシメルチニブで進行した方のための治療で、組み合わせる抗がん剤はカルボプラチンとペメトレキセドです。耐性の原因をねらう薬の研究・開発も進んでいます。どれが合うかは、耐性の原因と体の状態で変わるので、主治医にご確認ください。当院の分子標的治療のページもご覧ください。
主治医のもとで治療を続けたまま、当院にご相談いただけます。当院では、抗がん剤などの標準治療を土台にします。そのうえで、樹状細胞ワクチン療法などの免疫療法をどの時期に重ねるかを、患者さまごとに設計しています。ただし自由診療で、標準治療の代わりではありません。お受けいただけるかどうかは、画像と検査結果を拝見してから判断します。肺がんステージ4で抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬に樹状細胞ワクチン療法を併用した症例も公開しています。
※治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。また、本記事で紹介した研究の多くは開発・検証の段階にあり、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されたものではありません。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。