投稿日:2026.10.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
頭痛やけいれん発作をきっかけに脳腫瘍と診断されたとき、患者さまやご家族は先の見えない不安に直面します。手術で腫瘍をすべて取りきることが難しい場面も少なくありません。病理診断や遺伝子解析の結果を待つ日々に、焦りを感じる方も多いはずです。現在の医療では遺伝子変異に合わせた治療薬の開発が進み、治療選択肢は着実に広がりを見せています。
今月届いた治療薬の承認や新しい研究発表をもとに、最新の知見を分かりやすく解説します。
厚生労働省は2026年9月16日、経口分子標的薬トボラフェニブを製造販売承認しました。商品名はオジェンダです。対象となる疾患は、BRAF遺伝子変異または融合遺伝子を有する小児および成人の低悪性度神経膠腫です。
低悪性度グリオーマは手術で摘出後も長期間の管理が求められます。これまで標準的な化学療法後に病勢が進行した場合、有効な分子標的薬が国内に存在しませんでした。今回の承認によって、BRAF融合遺伝子をもつ患者さまに対して国内で初めて使える標的治療薬が登場しました。薬価収載を経て、実際の保険診療現場で間もなく処方できるようになります。
トボラフェニブはRAF二量体を阻害する新しい作用を持っています。従来のBRAF阻害薬で問題となった奇異性経路活性化を起こしにくい特徴を備えています。小児患者さまでも服用しやすいように経口懸濁液用の顆粒剤も開発されています。
当院の外来でも、再発したグリオーマの治療選択肢について悩むご家族から頻繁にご相談を受けます。遺伝子パネル検査を実施してBRAF遺伝子の異常が判明していれば、この新薬が新たな選択肢になります。遺伝子検査をまだ受けていない患者さまは、検査の適応について主治医や当グループにご相談ください。
シンバイオ製薬は、注射剤ブリンシドフォビルを用いた悪性脳腫瘍の試験結果を発表しました。この内容は第85回日本癌学会学術総会において採択されています。悪性度が高い膠芽腫に対する新たなアプローチとして注目されています。
ブリンシドフォビルは広範囲なDNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示す化合物です。近年ではウイルス阻害だけでなく、がん細胞の増殖抑制作用や腫瘍微小環境を改善する効果が確認されてきました。膠芽腫は既存の抗がん剤が効きにくく、標準治療後の再発に対して有効な手段が限られています。
ここで注目したいのは、この治験が将来の実用化を目指した研究段階にある点です。今すぐ一般の病院で使える薬ではありません。しかし、血液脳関門を通過して脳内の腫瘍病巣へ薬剤を届ける技術は、治療が難しい膠芽腫克服への足がかりになります。
実際に患者さまから「新しい治験薬は自分にも使えますか」と質問されることがあります。開発パイプラインの進捗を正しく把握することは、今後の治療方針を前向きに考える上で大きな支えになります。臨床試験への参加条件や適応の可能性について気になる方は、いつでも主治医や当グループにお問い合わせください。
世界肺癌学会で発表された臨床試験において、予防的全脳照射を行わずにMRI監視を続ける手法が良好な成績を示しました。脳転移のない小細胞肺癌患者さまを対象とした比較検証の結果です。定期的なMRI検査のみで経過を追った群は、全脳照射群に比べて認知機能の低下を抑えられました。
脳腫瘍の治療現場では、病変の制御と同時に生活の質をどう守るかが議論されてきました。放射線を脳全体に照射すると、腫瘍の再発を抑えられる反面、記憶力や判断力の低下といった認知機能障害が起きやすくなります。この研究は、高精度なMRI検査を定期的に行うことで過剰な放射線治療を避けられる可能性を提示しました。
原発性の脳腫瘍診療においても、認知機能の維持や日常生活への復帰は極めて大切な論点です。アーティストの安田章大さんが脳腫瘍の摘出手術後に社会復帰を果たし、自身の経験を医療関係者へ伝えたニュースも共感を呼びました。腫瘍を画像上小さくするだけでなく、患者さまが自分らしく暮らせる状態を支える姿勢が医療従事者に求められています。
治療に伴う記憶力の変化や運転への影響に不安を感じる方は少なくありません。当院でも治療計画を立てる際には、生活への影響を最小限に抑える方法を患者さまと話し合います。放射線治療の範囲や監視方針に疑問がある場合は、遠慮なく主治医や当グループへご相談ください。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種の一つが脳腫瘍です。当グループでは精密な遺伝子解析を駆使した個別化医療の実績を積み上げています。トボラフェニブのような標的薬の登場は、遺伝子を調べて最適な治療を選ぶ個別化医療の重要性を改めて示しています。私たちは腫瘍微小環境の分析や免疫療法の検討も含め、患者さま一人ひとりの状態に寄り添った選択肢の提示を大切にしています。
標準治療の継続に悩む方やセカンドオピニオンを希望される方は、どうぞお気軽にご相談ください。
使えるようになります。2026年9月16日に厚生労働省が製造販売承認し、対象はBRAF遺伝子変異または融合遺伝子をもつ小児・成人の低悪性度神経膠腫です。薬価収載を経て保険診療で処方できる見込みです。小児向けに経口懸濁液用の顆粒剤も開発されています。
現時点では受けられません。シンバイオ製薬の試験結果が第85回日本癌学会で発表される研究段階で、日本では未承認、保険診療では使えません。臨床試験への参加条件は主治医や当院にご確認ください。
全脳照射では、記憶力や判断力の低下が起きやすくなります。小細胞肺がんの臨床試験では、予防的全脳照射をせずMRIで経過を追った群で認知機能の低下が抑えられました。照射の範囲や経過観察の方針は、生活への影響を含めて主治医と話し合うことが大切です。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年9月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年10月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。