投稿日:2026.10.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
遺伝子検査でKRAS変異が見つかったと告げられ、今後の治療に不安を抱えている方は少なくありません。かつて標的薬の開発が難しいとされた領域ですが、現在は世界中で新しい治療薬の開発が加速しています。今月も将来の標準治療を変えうる臨床試験の開始や、微小環境への新たなアプローチが報告されました。今どのような研究が進み、いつ頃の臨床応用を目指しているのか、最新情報を分かりやすく整理してお伝えします。
アステラス製薬はKRAS G12D変異陽性の進行非小細胞肺がんを対象に、新薬セチデグラシブの国際共同第3相試験を開始しました。従来の抗がん剤であるドセタキセルとの効果を直接比較する検証です。
セチデグラシブは標的タンパク質を分解へ導く新しい仕組みの経口薬です。従来の阻害薬のように働きを抑えるだけでなく、細胞内の不要物処理システムを利用して変異タンパク質そのものを消し去ります。
この治験は一次治療で病勢が進行した局所進行または転移を有する患者さまが対象です。これまでの第1相試験などで安全性と予備的な有効性が確認されたことを受けて、最終段階の検証へと進みました。
外来でも患者さまから「G12C以外の変異に使える薬はまだですか」という切実な質問を多くいただきます。肺がんだけでなく膵臓がんや大腸がんでも頻度が高い変異だけに、この試験の進展は大きな希望となります。
ただし、本剤は現在臨床試験の段階であり、保険診療として一般の病院で使えるようになるまでには数年を要します。参加の適応や治験情報の詳細は、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
医療従事者向けの最新意識調査において、今後数年で最も診療が大きく変わる消化器がんとして膵臓がんを挙げる医師が多数を占めました。背景には患者数の増加と、これまでの厳しい予後を打開したいという医療現場の強い願いがあります。
膵臓がんでは9割以上の患者さまにRAS変異が認められ、なかでもG12DやG12Vといった特定の変異が多くを占めています。長年有効な分子標的薬が存在しませんでしたが、複数タイプの変異をまとめて抑える汎KRAS阻害薬などの開発が相次いでいます。
当院でも患者さまから「膵臓がんの新しい治療はいつ届くのか」とご相談を受ける機会が増えています。従来の抗がん剤治療に加えて、原因遺伝子を直接標的とする治療選択肢の登場がすぐそこまで迫っています。
現在標準治療を受けている方も、早い段階で包括的ながん遺伝子パネル検査を受けて自身の遺伝子変異の型を把握しておくことが大切です。どのような新薬の治験が適応になりうるか、検査結果をもとに主治医とあらかじめ話し合っておくと治療の選択肢が広がります。
東北大学などの全国疫学調査により、国内の慢性膵炎患者数が過去5年で約3割増加し、約半数が糖尿病を合併している実態が明らかになりました。慢性膵炎は膵臓がんの重要な危険因子として知られています。
慢性的な炎症が持続する膵臓の組織では、細胞の修復過程でKRAS変異などの遺伝子異常が蓄積しやすい環境が作られます。炎症に伴う線維化は腫瘍微小環境を強固にし、早期の病変を見つけにくくする要因にもなります。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種のひとつが、この難治性の膵臓がんです。慢性膵炎や急な糖尿病の悪化がある方は、画像検査だけでなく微小な遺伝子変異を捉えるリキッドバイオプシーなどを組み合わせた定期的な経過観察が勧められます。
自覚症状が乏しい段階から膵臓の健康状態を細かく追うことが、早期診断への第一歩となります。ご自身の膵臓の健康管理やリスクに応じた定期検査の計画について、気になる症状があれば主治医や当院へご相談ください。
山陰中央新報などが報じた最新研究では、腸内細菌叢を改変することで免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める臨床試験の成果が注目を集めています。がん細胞が免疫から逃れる仕組みを崩す新たな一手です。
KRAS変異を持つ固形がんは、がん細胞の周囲に免疫細胞の侵入を拒む強固な腫瘍微小環境を形成する傾向があります。この環境がバリアとなり、従来の免疫療法単独では十分な治療効果が得られないケースが目立っていました。
特定の腸内細菌が産生する代謝物質は、全身の免疫バランスを整えて腫瘍局所のキラーT細胞を活性化させることが分かってきました。腸内環境を整えるアプローチは、通院の負担や強い副作用を抑えながら既存の薬の効果を底上げできる可能性があります。
創薬ベンチャーを中心に、有用な腸内細菌をカプセルなどで投与するマイクロバイオーム創薬の臨床開発も世界的に活発化しています。将来はKRAS阻害薬と免疫療法、そして腸内細菌療法の三者を組み合わせた多層的な治療法が誕生するかもしれません。
日々の食事や腸内環境のケアが治療にどのような影響を与えるか疑問がある方は、自己判断で極端なサプリメントなどを試す前に、まずは主治医や当グループへご相談ください。
2026年9月は、KRAS G12D変異を標的とするセチデグラシブの第3相試験開始や、膵がん診療への期待、腫瘍微小環境を改善する腸内細菌研究など、前向きな話題が揃いました。
プレシジョンクリニックグループでは、新しいゲノム解析を通じて個々の変異プロファイルを精密に同定し、最適な治療選択肢をご提案する個別化医療に注力しています。当グループではKRAS変異がんに対する国内外の最新治療情報を常にアップデートし、患者さま一人ひとりの状態に合わせた丁寧なカウンセリングに取り組んでいます。
標準治療の継続や治験への参加、セカンドオピニオンなど、治療の歩み方に迷われた際はいつでもお気軽にご相談ください。
使えません。アステラス製薬がKRAS G12D変異陽性の進行非小細胞肺がんを対象に国際共同第3相試験を始めた段階で、日本では未承認、保険診療では使えません。一次治療で進行した方を対象にドセタキセルと比較する試験です。参加の適応は主治医や当院にご相談ください。
G12C以外の型を狙う薬は、まだ治験段階です。G12Dを標的とするセチデグラシブが第3相に進み、複数の変異をまとめて抑える汎KRAS阻害薬の開発も相次いでいます。まず遺伝子パネル検査で変異の型を把握し、適応になりうる治験を主治医と話し合っておくことが大切です。
慢性膵炎は膵臓がんの重要な危険因子です。炎症が続く膵臓では、細胞の修復の過程でKRAS変異などの遺伝子異常が蓄積しやすくなります。国内の慢性膵炎の患者さまは5年で約3割増え、約半数が糖尿病を合併しています。急な糖尿病の悪化がある方は、画像検査にリキッドバイオプシーなどを組み合わせた定期的な経過観察が勧められます。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年9月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年10月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。