投稿日:2026.10.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
がん治療において免疫の力を引き出すアプローチは目覚ましい進歩を遂げています。従来の抗がん剤とは異なり、ご自身の免疫細胞に働きかける治療だからこそ、日々の体調や腸内環境との相互作用が注目されています。今月も基礎研究から臨床応用まで多彩な報告が届きました。最新の研究結果が実際の診療や患者さまの選択肢にどう影響するのか、臨床医の視点から分かりやすくお伝えします。
腸内フローラを整えることで免疫療法の治療成績を高める新たな取り組みが進んでいます。免疫チェックポイント阻害薬は多くの患者さまに恩恵をもたらしてきました。その一方で、胃がんなどの消化器がんでは十分な効果を得られない方が少なくありません。
近年の研究によって、特定の腸内細菌が抗腫瘍免疫を活性化させることが判明してきました。腸内環境の違いが薬の効き目を左右しているという事実が、臨床試験によって実証されつつあります。腸内細菌叢の移植や特定の菌株カプセルを併用する手法が試みられています。
この治療法はまだ研究段階にあり、一般の保険診療で受けられるものではありません。身近なヨーグルトなどの食品を摂取するだけで同等の効果が得られるわけではない点に注意が必要です。治療の土台となる全身状態を整える意味は大きいです。
当院でも患者さまから「免疫療法を受けるにあたって食事で気をつけることはありますか」と質問されることがあります。日頃の食事バランスや整腸習慣について不安がある方は、主治医や当グループにご相談ください。
米国のモデルナ社が進める個別化mRNAがんワクチン開発が大きな関心を集めています。人工知能を活用して患者さま固有のがん抗原を解析し、最適なmRNAを短期間で設計する技術が実用段階に入ってきました。腫瘍微小環境を克服する切り札として期待が高まっています。
このワクチンは、患者さま自身のがん組織から遺伝子変異を網羅的に調べるゲノム解析が前提となります。患者さまごとに異なるネオアンチゲンと呼ばれる特異的な標的を特定し、免疫細胞に学習させます。PD-1阻害薬と併用することで、活性化されたT細胞の攻撃力を維持する治験が先行しています。
悪性黒色腫や肺がんを対象とした臨床試験において、再発リスクの低下を示す良好なデータが蓄積されています。現時点では国内で広く承認されている段階ではありません。しかし、個別化医療の究極形として数年以内の実用化が現実味を帯びてきました。
外来でも患者さまから「ニュースで見たがんワクチンは私にも使えますか」と相談を受ける機会が増えています。ご自身のがん細胞の特徴を調べる網羅的ゲノム検査の有用性や今後の選択肢について、ぜひ当グループにご相談ください。
難治がんの代表である膵臓がんに対して、新たなRAS標的薬ダラクソンラシブが米国食品医薬品局から異例の速さで迅速承認を受けました。RAS遺伝子変異を標的とする低分子薬であり、これまで有効な手立てが乏しかった進行膵がんに対する強力な武器となります。
膵臓がんは腫瘍微小環境が強固であり、免疫チェックポイント阻害薬単独では十分な効果を発揮しにくいがん種として知られています。ダラクソンラシブのような分子標的薬によってがん細胞が破壊されると、免疫系に対してがん抗原が放出されます。
この現象によって冷たい腫瘍が熱い腫瘍へと変化し、免疫療法が効きやすい環境が整います。米国では単剤承認に続いて、PD-L1阻害薬などとの複合療法の臨床試験がすでに始まっています。日本国内での承認は今後の治験結果を待つ必要があります。
プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種のひとつが膵がんです。標準治療に加えてどのような分子標的治療や免疫療法の選択肢が考えられるか、疑問をお持ちの方は主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
ダラクソンラシブの効果・副作用・日本で使えるまでの見通しは、ダラクソンラシブ(ラソンク)とはで詳しく解説しています。
切除後の大型脳転移に対して、術後の高精度放射線治療を分割して行う手法が再発リスクを低下させることが臨床試験で証明されました。単回での定位照射と比較して、3回から5回に分けて照射する分割定位照射のほうが、手術部位での局所再発を有意に抑えました。
この知見はASTRO2026において発表され、脳転移を有する進行がん患者さまの局所マネジメントを大きく前進させました。局所の再発を防ぐことは、麻痺や高次脳機能障害を防ぎ、患者さまの生活の質を守るために極めて大切です。
局所の安定が得られて初めて、PD-1阻害薬をはじめとする全身免疫療法を中断せずに継続できます。定位放射線照射はがん抗原の放出を促し、全身の抗腫瘍免疫を呼び覚ますアブスコパル効果の観点からも関心を集めています。実臨床ですぐに応用できる重要な知見です。
私たちの外来でも「頭の転移が見つかって今後の治療が不安です」と来院される方が多くいらっしゃいます。放射線治療と薬物療法をどのように組み合わせるべきか、迷われた際は主治医や当グループにご相談ください。
今月は腸内細菌の改変技術からmRNAワクチン、新規分子標的薬の迅速承認、放射線治療の最適化まで、免疫療法の可能性を広げる成果が相次ぎました。免疫チェックポイント阻害薬単剤の時代から、ゲノム解析や腫瘍微小環境の制御を組み合わせた複合的なアプローチへと治療の主軸は移っています。
プレシジョンクリニックグループでは、高度なゲノム解析と免疫モニタリングを統合した個別化医療の実践に取り組んでいます。患者さまお一人おひとりの病態に寄り添い、生活の質を守りながら最善の選択肢を見出す姿勢を大切にしています。これからの治療方針についてお悩みの方は、当グループへお気軽にご相談ください。
使えません。モデルナ社などが開発中で、悪性黒色腫や肺がんの臨床試験で再発リスク低下のデータが蓄積されていますが、日本では未承認で、保険診療では受けられません。患者さまご自身のがんの遺伝子変異を網羅的に調べることが前提となる治療です。
上がるとは言えません。特定の腸内細菌が抗腫瘍免疫を活性化することは分かってきましたが、臨床試験では細菌叢の移植や特定の菌株カプセルが使われており、食品で同じ効果が得られるわけではありません。全身状態を整える意味で食事のバランスは大切です。自己判断で極端な方法を試す前に主治医にご相談ください。
局所が安定すれば続けられる場合があります。切除後の大型脳転移に3〜5回に分けた定位照射を行うと、単回照射より局所再発が有意に少ないことがASTRO2026で示されました。局所を抑えることが、PD-1阻害薬などの全身治療を中断せずに続ける土台になります。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年9月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年10月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。