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TOP コラム 免疫療法 好中球ががんを直接攻撃する|IL10R阻害という新しい道

免疫療法

投稿日:2026.6.4/更新日:2026.9.20

好中球ががんを直接攻撃する|IL10R阻害という新しい道

この記事でわかること

  • T細胞に頼らず、好中球が直接がん細胞を攻撃しうることが報告されました
  • 鍵は抗CD40抗体とIL10受容体阻害の併用で、IL12とIFN-γを介して好中球が攻撃する側に変わりました
  • 攻撃には、がん細胞への物理的な接触と脱顆粒が必要でした
  • 転移性膵臓がんのPRINCE試験では、血中IL10が低い方ほど生存が良好でした(抗CD40抗体を受けた方に限る)

がん免疫療法の話題は、ほとんどがT細胞の話です。免疫チェックポイント阻害薬もT細胞のブレーキを外す薬でした。今回ご紹介する報告は、そこに別の細胞を持ち込みます。好中球です。

好中球は、細菌が入ってきたときに真っ先に集まる、自然免疫の主力です。がんとの関係は長く「複雑」とされ、腫瘍を助ける側にも抑える側にも回ると報告されてきました。今回の報告は、条件を整えると好中球がT細胞に頼らずがん細胞を直接攻撃することを示しました。

報告されたこと ― 2つの薬を組み合わせると好中球が変わった

研究チーム(Khalil DN ほか, Cancer Immunology Research 2026)が用いたのは、次の組み合わせでした。

役割
抗CD40抗体 樹状細胞などの抗原提示細胞を活性化させる
IL10受容体(IL10R)阻害 免疫を抑える方向に働くIL10のシグナルを遮断する

この2つを併用すると、Batf3に依存する経路が動いてIL12とIFN-γが分泌され、好中球が腫瘍を攻撃する状態に変わりました。アクセルを踏む薬と、ブレーキを外す薬の組み合わせです。

攻撃の仕方が変わっている ― 接触と脱顆粒

顕微鏡観察・単一細胞解析・機能試験を組み合わせた結果、好中球によるがん細胞の攻撃は物理的な接触と脱顆粒(顆粒の中身を放出すること)に依存していました。このとき好中球は、通常とは異なる、動き回って組織に入り込む性質を示していました。

離れた場所から抗体で狙うのではなく、直接触れて壊す。そういう働き方です。

ヒトのデータ ― 膵臓がんの試験で見えたこと

この報告が前臨床だけで終わっていない点が重要です。

抗CD40抗体の第I相試験では、投与に応じて血中のIL12・IFN-γ・IL10がいずれも上昇しました。さらに、転移性膵臓がんを対象とした第Ib/2相のPRINCE試験では、血中IL10が低い方ほど全生存が良好という関連がみられました。ただしこれは抗CD40抗体を受けた方に限った関連です。

また、G-CSFで好中球が増えたことが全生存の良好さと関連したのも、抗CD40抗体を受けた方に限られていました。

なおPRINCE試験そのものは、一次治療の転移性膵管がんに対してソチガリマブ(抗CD40抗体)とニボルマブを化学療法に上乗せした無作為化第2相試験で、主要評価項目の1年全生存を達成したのはニボルマブ+化学療法の群でした(Padrón LJ ほか, Nature Medicine 2022)。今回の報告は、その試験の血液データを別の角度から読み直したものです。

当院の考え方 ― 「抑えている側」を外す発想

この報告の構図は、当グループがSynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI)で考えている組み立てと重なります。アクセルを踏む(抗原提示細胞を活性化する)だけでは足りず、ブレーキを外す手当てが要る、という点です。

当院の樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞にがんの目印を覚えさせて送り出す治療です。そのうえで、免疫を抑える側の状態を腫瘍微小環境の検査で確認し、必要なら免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせます。膵臓がんの治療のページもあわせてご覧ください。

限界と、いま言えないこと

好中球の攻撃が確認されたのは前臨床モデルです。ヒトで同じことが起きていると示されたわけではありません。

抗CD40抗体もIL10受容体阻害薬も、国内では承認されていません。当院で提供している治療ではありません。

そしてPRINCE試験のIL10と生存の関連は観察された相関であり、因果を示したものではありません。IL10を下げれば生存が延びる、とは言えません。

さらに注意が要るのは、この軸は逆方向で既に大規模に試され、うまくいかなかったことです。IL10をペグ化して投与する第III相試験(SEQUOIA・ゲムシタビン既治療の転移性膵管がん567例)では、FOLFOXへの上乗せで全生存は延びず(中央値5.8か月対6.3か月、ハザード比1.045)、血小板減少や貧血はむしろ増えました(Hecht JR ほか, J Clin Oncol 2021)。IL10は当たる細胞によって働きが変わるため、「上げる」「下げる」という単純な図式では扱えません。

なおPRINCE試験でIL10が測られたのは、血清タンパク質172項目を一括で調べる研究用のパネル(Olink)によるもので、日常の臨床検査ではありません。「いくつ以下なら良い」という基準は示されていません。

当院の実例

膵臓がん術後の多発肺転移ステージ4に、半量の抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法・免疫チェックポイント阻害薬・栄養療法を組み合わせ、2年間の進行停止が得られた77歳男性

手術後の経過観察中に肺転移が判明して当院へ転院された方です。抗がん剤(ジェムザール・アブラキサン)を半量に抑え、樹状細胞ワクチン療法と免疫チェックポイント阻害薬、栄養療法を組み合わせました。肺転移は縮小後に進行停止を維持し、副作用なく2年間ゴルフを楽しむ生活を続けられています。薬を強くするのではなく、免疫が働ける条件を整えるという設計の一例です。

症例の詳細を見る →

※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。

まとめ

好中球は、条件が整えばT細胞に頼らずがん細胞を直接攻撃しうる。その条件は、抗原提示細胞を活性化することと、IL10という抑える側のシグナルを遮断することでした。

がん免疫療法を考えるとき、「誰を働かせるか」と同じくらい「何が邪魔をしているか」が重要だということです。

※治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。また、本記事で紹介した研究の多くは開発・検証の段階にあり、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されたものではありません。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。

よくある質問

好中球を増やす治療は受けられますか?

がん治療として好中球を増やす確立した方法はありません。この研究で触れられているG-CSF(好中球を増やす薬)は、抗がん剤で白血球が減ったときに使う薬で、がんを攻撃させる目的で使う薬ではありません。研究では抗CD40抗体を受けた方に限って生存との関連がみられた、という段階です。

抗CD40抗体やIL10R阻害薬は日本で使えますか?

2026年時点で、抗CD40抗体(ソチガリマブ等)とIL10受容体阻害薬はいずれも国内で承認されていません。臨床試験の段階にある薬です。当院で提供している治療ではありません。

好中球が多いことは、がんにとって良いことなのですか?

一概には言えません。好中球は腫瘍の増殖を助ける側に回ることも、抑える側に回ることも報告されてきました。この研究が示したのは「条件を整えれば直接攻撃する側に回りうる」ということで、好中球が多ければ良い、という意味ではありません。血液検査の好中球の数だけで判断はできません。

免疫の邪魔をしているものが何か、
当グループでは検査で確かめてから設計しています。
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当院では腫瘍微小環境の検査とこれまでの治療歴をもとに、いま検討できる選択肢をご説明しています。
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    参考にした論文

    • Khalil DN, Gomez R, Regev A, ほか. IL10R Inhibition Induces Neutrophil Tumoricidal Activity. Cancer Immunol Res. 2026;14(5):733-750.(doi:10.1158/2326-6066.CIR-25-0834
    • Padrón LJ, Maurer DM, O’Hara MH, ほか. Sotigalimab and/or nivolumab with chemotherapy in first-line metastatic pancreatic cancer: clinical and immunologic analyses from the randomized phase 2 PRINCE trial. Nat Med. 2022;28(6):1167-1177.(doi:10.1038/s41591-022-01829-9
    • Hecht JR, Lonardi S, Bendell J, ほか. Randomized Phase III Study of FOLFOX Alone or With Pegilodecakin as Second-Line Therapy in Patients With Metastatic Pancreatic Cancer That Progressed After Gemcitabine (SEQUOIA). J Clin Oncol. 2021;39(10):1108-1118.(doi:10.1200/JCO.20.02232
    監修医師:矢﨑 雄一郎医師

    監修医師

    矢﨑 雄一郎医師

    免疫療法・研究開発

    東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

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