投稿日:2024.1.20/更新日:2024.11.12
膵臓がんは、診断と治療が難しいがんですが、ある臨床治験によって新しいワクチン治療が大きな希望をもたらす可能性があることがわかりました。
本記事では著名学術誌にも掲載された、とある臨床治験とその結果についてご紹介します。
膵臓がんおよび大腸がんの患者25人(膵臓がん20人、大腸がん5人)を対象にしたELI-002 2PのPhase 1臨床治験が、著名学術誌「ネイチャーメディシン」に発表されました。
このワクチンは、KRAS(ケーラス)遺伝子の特定の変異(G12DおよびG12R)をターゲットにしたペプチドと、免疫反応を強化するCpGオリゴヌクレオチドを含んでいます。
治験ではワクチンがリンパ節に届き、KRAS(ケーラス)がんに対する強い免疫応答を促進することが期待されました。
治験では、局所治療後に最小残存mKRAS疾患(ctDNAおよび/または血清腫瘍抗原陽性)を認めた患者に、定用量のAmph-Peptides-2Pと用量調整されたAmph-CpG-7909を投与しました。
投与後、患者さまはフォローアップされ、安全性と推奨フェーズ2用量(RP2D)、腫瘍バイオマーカーの変化や免疫原性、無再発生存期間(RFS)が評価されました。
結果として、治験参加者の84%(21人中18人)がmKRAS特異的な強いT細胞応答を示しました。
腫瘍バイオマーカーは25人中21人(84%)で改善が見られ、特に6人(膵臓がん3人、大腸がん3人)では著しい改善が観察されました。
中央RFSは16.33ヶ月に達し、腫瘍バイオマーカーの減少率は−76.0%対−10.2%(P<0.0014)、中央RFSは未達成対4.01ヶ月(ハザード比=0.14;P=0.0167)でした。
重大な有害事象は観察されず、RP2Dは10.0 mgのAmph-CpG-7909とされました。
これは、ELI-002 2Pが膵臓がんを代表とするKRAS(ケーラス)変異腫瘍を持つがん患者さまに対して安全で効果的な免疫ワクチン療法であることを示した臨床治験となりました。
『Lymph-node-targeted, mKRAS-specific amphiphile vaccine in pancreatic and colorectal cancer: the phase 1』Nature Medicine 09 January 2024
ELI-002 2Pの臨床治験内容と結果をご紹介しましたが、ELI-002 2Pの基本メカニズムは、当クリニックグループが取り組んでいる樹状細胞の働きを利用した免疫ワクチンと基本的に同じです。
樹状細胞ワクチンは、がんに対してKRAS(ケーラス)変異をはじめとする特定の免疫応答を強化するために、患者さま自身から一旦体外に取り出し、活性化させた後、患者の体内に戻すことで、強力な免疫反応を誘発します。
ELI-002 2Pの臨床治験で用いるAmph-Peptides-2Pは、それを注射をして体内の樹状細胞に作用させた上で、患者さまのリンパ節内でKRAS(ケーラス)変異を標的とする免疫を活性化させる治療です。
一方、樹状細胞ワクチンは樹状細胞を取り出し、KRAS変異を標的とする免疫を作用させるところまで済ませた上で患者さまの体内にも戻す方法で、1ステップ工程を済ませた手法になります。
今回注目している点は、エピトープスプレディングと呼ばれる、標的抗原の多様性が発生し、KRAS(ケーラス)ペプチド変異以外の幅広いがん抗原を標的とするT細胞(がんを攻撃するリンパ球の一つ)が出現しているところです。
これはKRAS(ケーラス)変異が目印となっている膵臓がん細胞以外の膵臓がん細胞にも対応できる免疫ワクチン療法かもしれません。
ELI-002 2Pの臨床治験と樹状細胞ワクチンのメカニズムが共通していることで、我々の樹状細胞ワクチンへの自信を新たにいたしました。樹状細胞ワクチンのさらなる開発と改善に力を入れ、今後もがん治療の前線で貢献を続けていきます。
【監修者】岡崎 能久
大阪大学医学部を卒業後、同大学院の修士課程を終了したのち、関西地方を中心に医療に従事、現在はプレシジョンクリニック名古屋院長として活躍中。専門は内視鏡診断および治療・研究開発。日本内科学会認定医や日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医などの認定医を保有。
略歴:
2001/3
大阪大学医学部卒業
2001/6
大阪大学医学部附属病院内科研修医
2002/6
大阪厚生年金病院 内科 研修医