投稿日:2026.6.1/更新日:2026.9.21
この記事でわかること
膵臓がんと診断されたとき、治療選択肢や今後の生活に不安を感じる方は少なくありません。難治とされる膵癌ですが、早期発見の地域体制づくりや遺伝子変異を標的とする新薬開発、全ゲノム解析の普及に向けた政策提言など、医療環境は着実に前進しています。今回は患者さんとご家族の治療選択に役立つ最新動向をまとめました。
長崎大学の研究チームは、がん遺伝子RASを標的とする新しいタンパク質型の治療薬候補を開発しました。従来の低分子薬とは異なる機序でがん細胞に働きかける点が特徴です。
膵臓癌の約9割にはKRAS遺伝子の変異が認められます。これまでRASタンパク質は創薬標的として難攻不落とされてきましたが、近年は分子標的薬の開発が世界中で進んでいます。今回の研究では、薬剤が直接がん細胞を攻撃するだけでなく、免疫細胞と協力して腫瘍を消失させるメカニズムが解明されました。
腫瘍微小環境と呼ばれるがん周囲の免疫抑制状態を解除し、生体防御機構を活性化させる可能性が期待されています。現在は前臨床の研究段階であり、今すぐ保険診療で使えるわけではありません。治験の開始に向けて準備が進められています。ご自身の遺伝子変異や最新の臨床試験情報については、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
岡山大学病院は、膵臓がんの早期診断を目指す地域連携事業として岡山早期膵癌プロジェクトを推進しています。愛称はMOMOTAROプロジェクトです。
膵がんは初期症状が乏しく、進行した状態で見つかるケースが多い疾患です。この取り組みでは、地域のクリニックと中核病院が密接に連携します。糖尿病の急な悪化や血流異常、超音波検査での主膵管拡張など、わずかな危険兆候を見逃さずに精密検査へつなげる仕組みを構築しています。
画像診断や内視鏡超音波検査を適切なタイミングで実施できれば、治癒切除が目指せる段階で病変を発見できる確率が高まります。当院の外来でも、健診の腹部エコーで膵管拡張を指摘されて受診される方が増えてきました。些細な検査異常であっても自己判断で放置せず、早期の専門医受診をご検討ください。
国会議員や研究者で構成されるゲノム医療推進研究会は、厚生労働省に対して全ゲノム解析の普及を求める政策提言を提出しました。公的医療保険の適用拡大が柱です。
現在のがん遺伝子パネル検査は、標準治療が終了した段階や終了見込みの患者さんが主な対象となっています。今回の提言では、初回治療の段階から網羅的な遺伝子解析を実施できる体制づくりを求めています。希少な遺伝子変異が見つかれば、早い段階で最適な分子標的薬や臨床試験を選択できる可能性が広がります。
ゲノム情報に基づいた個別化医療は、一人ひとりの腫瘍特性に合わせた治療を実現する上で欠かせない基盤となります。将来的に保険適用の枠組みが広がれば、より多くの患者さんが恩恵を受けられるようになります。遺伝子検査の実施時期や適応について疑問がある場合は、いつでも当グループへご相談ください。
読売新聞の連載記事において、膵臓がんの治療を乗り越えた眼科医の若倉雅登医師による闘病体験が紹介され、大きな反響を呼んでいます。
記事では、集学的治療を受けながら自宅での遠隔診療など医師としての活動を継続した工夫が語られています。膵がんの治療では、外科手術や抗がん剤治療による体調変化とどのように付き合うかが極めて切実な問題となります。治療効果の追求はもちろん大切ですが、生活の質を保ちながら社会生活をどう続けるかも同じくらい重要です。
外来でも患者さんから、仕事を続けながら抗がん剤治療を受けられるかと質問される場面が多々あります。支持療法の進歩により、吐き気や倦怠感などの副作用を和らげる手段は格段に充実してきました。通院スケジュールや体調管理に不安があるときは、遠慮なく医療チームに相談してください。
膵臓がん診療は、早期診断ネットワークの構築やRAS阻害薬などの創薬、ゲノム解析による個別化医療の進展により、新たな局面を迎えています。プレシジョンクリニックグループが創業以来最も取り組んでいるがん種が膵臓がんです。当グループでは、高精度な遺伝子解析と腫瘍微小環境の評価を組み合わせた多角的なアプローチの実績を積み上げています。
プレシジョンクリニックグループの膵臓がん治療についての詳細もご覧いただき、治療方針やセカンドオピニオンでお困りの際はいつでもご相談ください。
当院の実例
腹腔洗浄細胞診が陽性(腹膜播種)だった膵尾部がんステージⅣに、手術後の抗がん剤(TS-1)と樹状細胞ワクチン療法を併用し、6年間無再発の66歳女性
大学の免疫療法専門医からの紹介で受診された膵尾部がんステージⅣの方です。樹状細胞ワクチン療法の準備(採血・培養)をしたうえで手術を行いましたが、手術所見で腹腔洗浄細胞診が陽性で、お腹の中にがん細胞が散らばった状態(腹膜播種)でした。術後に抗がん剤(TS-1)を開始し、同時に樹状細胞ワクチン療法を併用。診断後6年間、再発なく経過しており、学会でも報告された症例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
基礎研究の段階で、臨床試験はこれからです。実用化には通常5年以上かかります。現時点で膵臓がんのKRAS変異に対して日本で承認された薬はなく、米国で2026年8月に承認されたダラクソンラシブも日本では未承認です(ダラクソンラシブの解説)。承認を待つ間の現実的な選択肢は、標準治療の抗がん剤に免疫療法を組み合わせる設計です。
家族歴、新たに発症した糖尿病、IPMNや膵嚢胞の指摘がある方は、年1回の超音波内視鏡(EUS)またはMRCPを検討してください。腫瘍マーカー(CA19-9)だけでは早期発見はできません(膵臓がんの検診・早期発見)。
保険のがん遺伝子パネル検査は「標準治療が終了した、または終了見込み」の方が対象です。記事の提言はこの条件を広げるものですが、決定ではありません。治療の早い段階で調べたい場合は、当院の自由診療の検査が使えます(膵臓がんの最新治療とゲノム検査、検査の料金)。
【監修】矢﨑雄一郎(プレシジョンクリニック東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア)
【免責事項】本記事は2026年05月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年8月28日