投稿日:2026.8.5/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
手術でがんを取りきった。画像にも何も映らない。それでも再発するかどうかは、これまで時間が経たないと分かりませんでした。この前提を変えつつあるのが、血液中に流れるがん由来のDNA(ctDNA)を調べるMRD検査です。術後の採血でctDNAが見つかった方は、見つからなかった方に比べて再発のリスクがはっきり高い。大腸がん・膀胱がん・肺がんなどで、数千人規模のデータが同じ結論を繰り返し出してきました。2026年には日本で初めてMRD検査(Signatera/シグナテラ)が承認され、米国ではMRD陽性を条件にした術後の免疫療法が承認されています。ただし、陽性と分かったあとに何をすれば結果が良くなるのか。ここはまだ答えがそろっていません。本コラムでは最新の試験結果を数字のまま並べ、「再発の前に見えた時間」をどう使えるのかを、うまくいった試験とうまくいかなかった試験の両方から整理します。
先に結論を書きます。術後のMRD検査でctDNAが陽性になった方の再発リスクは高い。この関係は、複数のがん種で一貫して示されています。再発を画像より早く知らせる「予告」としてなら、MRD検査はすでに実用の段階にあります。
難しいのはその先です。予告を受けて抗がん剤を強めた試験では、結果が良くならなかった例が続きました。陰性だからと抗がん剤を減らした試験でも、標準治療と同等とは言い切れない結果が出ています。その中で、膀胱がんでは陽性の時期に免疫療法を入れることで、全生存期間まで延びたという第III相試験が初めて報告されました。
つまり2026年の時点で言えるのは、「陽性が分かったこと」自体は価値がある。ただし「陽性の時期に何をするか」は、がん種と治療の種類ごとに一つずつ確かめている途中ということです。このコラムでは、その確かめの現状を順に見ていきます。
MRD検査とひとくちに言っても、中身は大きく2つに分かれます。違いは手術で取った腫瘍組織を出発点にするかどうかです。ここを押さえないと、検査結果の意味を取り違えます。
腫瘍情報依存型は、先に腫瘍組織の遺伝子を網羅的に調べ、その方だけの変異の組み合わせで「専用の物差し」をつくります。物差しが個人仕様なので、血液中に極めてわずかしかないctDNAでも拾いやすい。大腸がんでSignateraを評価した研究では、術後に繰り返し採血した場合、のちに再発した方の88%を検出し、検体単位の特異度(再発しない方を陰性と判定する正確さ)は99.8%でした。再発の画像診断より平均8.7か月早く陽性になっています(JAMA Oncol 2019)。
腫瘍情報非依存型は、血液だけで始められるのが強みです。腫瘍組織が手元にない方や、組織の量が足りない方でも検査できます。代表例のGuardant Revealでは、大腸がんで術後1回の採血による感度が55.6%、繰り返し測定すると69.0%でした(Clin Cancer Res 2021)。
| 項目 | 腫瘍情報依存型 | 腫瘍情報非依存型 |
|---|---|---|
| 代表例 | Signatera(シグナテラ)、NeXT Personal ほか | Guardant Reveal |
| 必要なもの | 腫瘍組織+血液 | 血液のみ |
| 報告された成績(大腸がん) | 繰り返し測定で再発の88%を検出、検体単位の特異度99.8%(Reinert 2019) | 1回の採血で感度55.6%、繰り返しで69.0%(Parikh 2021) |
| 強み | その方の変異を狙うため、わずかなctDNAを拾いやすい | 組織がなくても始められる |
| 弱み | 先に組織の解析が要るため、最初の結果まで時間がかかる。組織が足りないと作れない | 血液細胞由来の変異(クローン性造血)を、がん由来と誤認しないための工夫が要る |
※上の数値は別々の研究から得たもので、同じ患者さまを対象に両方式を直接比べた結果ではありません。性能の優劣をこの表から決めることはできません。
さらに感度を上げる方向として、腫瘍の全ゲノム情報をもとに数千か所の変異を追う検査も登場しています。NeXT Personalでは、検出閾値として、血液中のDNA100万個あたり1.67個という水準が報告されました(Oncotarget 2024)。ただしこれは検査そのものの分析性能です。検出できる量が少なくなるほど、患者さまの経過が良くなるということまでは、まだ示されていません。
MRD検査のエビデンスがもっとも厚いのは大腸がんです。しかも中心にあるのは日本の研究です。国立がん研究センター東病院などが主導するCIRCULATE-Japanの観察研究GALAXYでは、Signateraを用いて、術後抗がん剤を始める前の2〜10週の時点でctDNAを測りました。
2024年の報告では、ステージII〜IVの2,240人が登録され、評価できた2,109人のうち15.93%(336人)がこの時点でctDNA陽性でした。24か月無病生存率は陽性20.57%、陰性85.10%。再発リスクのハザード比は11.99です(Nat Med 2024)。高リスクのステージII〜IIIで術後の抗がん剤による上乗せをみると、陽性の方では調整後ハザード比0.23と大きく、陰性の方では0.70で統計学的な差になりませんでした。
ここだけ見ると「陽性なら抗がん剤、陰性なら不要」で決まりそうに思えます。ところが話はそれほど単純ではありません。GALAXYは観察研究であり、治療を受けるかどうかは無作為に割り付けられていないからです。それを確かめるために行われたのが、次の無作為化比較試験です。
術後ctDNAで、再発リスクはここまで分かれる
大腸がん 手術(ステージII〜IV)
GALAXY 2,240人
▼ 術後2〜10週で採血し、ctDNAを測定
ctDNA 陽性 15.93%
20.57%
24か月無病生存率
ctDNA 陰性
85.10%
24か月無病生存率
▼ では、陽性の時期に治療を変えると結果は変わるのか
答えは、がん種と治療の種類で違う
大腸がんの抗がん剤強化(DYNAMIC-III・ALTAIR)は上乗せを示せず。膀胱がんの免疫療法(IMvigor011)は全生存を改善
出典:Nakamura Y, et al. Nat Med 2024. DOI:10.1038/s41591-024-03254-6/図:プレシジョンクリニック作成
| 試験 | 対象 | 試したこと | 結果 |
|---|---|---|---|
| GALAXY 観察研究・Nat Med 2023/2024 |
ステージII〜IV | 術後2〜10週のctDNAと予後の関係 | 24か月無病生存率 陽性20.57%・陰性85.10%(HR 11.99) |
| DYNAMIC 無作為化・NEJM 2022 |
ステージII | ctDNAで術後抗がん剤の要否を決める | 抗がん剤の使用 15.3% 対 27.9%。2年無再発生存率 93.5% 対 92.4%(非劣性)。5年でも88% 対 87% |
| DYNAMIC-III 無作為化・Nat Med 2025 |
ステージIII | 陰性なら抗がん剤を軽く、陽性なら強く | 軽くした群の3年無再発生存率 85.3% 対 88.1%で非劣性を示せず。強くした群は2年 51% 対 61%で上乗せなし |
| ALTAIR 無作為化・Nat Med 2026 |
術後ctDNA陽性 | トリフルリジン・チピラシル 対 プラセボ | 無病生存期間 9.30 対 5.55か月(HR 0.79、P=0.107)で主要評価項目は未達。重い血液毒性 73.0% 対 3.3% |
| COBRA 無作為化・学会抄録 2024 |
ステージIIA | 非依存型検査1回で抗がん剤を決める | 陽性は16人のみ。ctDNA消失は経過観察3/7人、抗がん剤1/9人で無益中止 |
※DYNAMICの使用率・生存率はNEJM 2022、5年成績はNat Med 2025。COBRAは査読論文としての全文発表を確認できていません。
DYNAMICは、ctDNAを使えば抗がん剤を受ける人をほぼ半分に減らしても、再発率が変わらないことを示しました。5年の追跡でもこの関係は崩れていません。体への負担を減らせるという意味で、MRD検査の価値がもっともはっきり出た試験です。
ところが再発リスクがより高いステージIIIのDYNAMIC-IIIでは、同じ考え方が通りませんでした。オキサリプラチンを使った人の割合は34.8%と88.6%で大きく減り、重い有害事象も減っています。それでも3年無再発生存率の差は−2.8%で、信頼区間の下限が事前に決めた許容範囲を越えました。軽くした分、再発がわずかに増えた可能性を否定できないという結果です。
反対方向の試みは、さらに厳しい結果でした。DYNAMIC-IIIで陽性の方に抗がん剤を強めても、無再発生存率は良くなりませんでした。日本のALTAIRでも、術後ctDNA陽性の方へのトリフルリジン・チピラシルは主要評価項目に届いていません。
なぜか。一つの解釈は、術後にctDNAが陽性になった時点で、がんはすでに全身に小さく散らばっていて、抗がん剤を少し強める程度では追いつかないというものです。DYNAMIC-IIIでは、治療後もctDNAが残った方の3年無再発生存率は14%、消えた方は79%でした。消せるかどうかが分かれ目であり、抗がん剤だけでは消しきれない方がいる、と読めます。
陰性でも安心しきれない点も書いておきます。DYNAMIC-IIIで陰性だった方の3年無再発生存率は87%でした。13%前後の方は、陰性でも再発している計算です。陰性は「再発しない」という保証ではありません。
抗がん剤の強化がうまくいかない中、別の種類の治療で結果が出ました。舞台は膀胱がんです。
筋層浸潤性膀胱がんで膀胱を全摘した方761人に、術後ctDNAを繰り返し測定しました(Signatera)。経過中にctDNAが陽性になり、かつ画像ではまだ再発が見えない250人を、免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブとプラセボに2対1で割り付けています。
結果は、無病生存期間のハザード比0.64(95%信頼区間0.47〜0.87)、全生存期間のハザード比0.59(同0.39〜0.90)でした(NEJM 2025)。MRD陽性を条件に治療を入れて、全生存期間まで延びたことを示した初めての第III相試験です。これを受けて米国FDAは2026年5月15日、ctDNA陽性の筋層浸潤性膀胱がんに対する術後アテゾリズマブを承認し、判定に使うSignatera CDxをコンパニオン診断として承認しました。
見逃せないのは陰性側の数字です。ctDNAが陰性のまま推移した357人は、術後の追加治療を受けずに経過を見ました。それでも2年無病生存率は約88%です。陰性の方には治療を足さず、陽性の方にだけ足すという使い分けが、無作為化試験の中で形になりました。
この結果には伏線があります。同じ薬を術後の全員に投与したIMvigor010は、全体では効果を示せませんでした。ところが後からctDNAを測り直すと、陽性だった37%の方に限っては無病生存のハザード比が0.58だったのです(Nature 2021)。その仮説を、前向きに確かめたのがIMvigor011でした。
同じ発想を乳がんで試した試験は、別の壁にぶつかりました。トリプルネガティブ乳がんのc-TRAK TNでは、ctDNA陽性の方にペムブロリズマブを投与する計画でした。ところがctDNAが初めて検出された時点で、72%の方はすでに画像で転移が見えていたのです(Ann Oncol 2023)。実際にペムブロリズマブを始められたのは5人にとどまりました。
ニラパリブを用いたZEST試験でも、1,901人を検査して陽性は147人(7.7%)。無作為化できたのは40人で、試験は早期に終了しています(2024年の学会報告)。増殖の速いがんでは、ctDNAが見えてから画像に映るまでの時間が短い。検査の間隔と感度の両方が、この時間の長さを決めます。
MRDの時期は、がんワクチンにとって理想の舞台だと考えられてきました。腫瘍がごくわずかで、免疫を抑える仕組みもまだ強くないからです。
個別化mRNAネオアンチゲンワクチン autogene cevumeran(BNT122)を切除後の膵管腺がん(PDAC)16人に投与した研究では、ワクチンでT細胞の反応が出た8人の無再発生存期間の中央値は3年以上の追跡でも未到達でした。反応しなかった8人は13.4か月です(Nature 2025)。ただしこれは反応した人と反応しなかった人の比較であり、ワクチンを打った人と打たなかった人の比較ではありません。著者自身も、未知の交絡を排除できないと書いています。
そして2026年8月、同じワクチンを術後ctDNA陽性の大腸がんで経過観察と比べた第II相試験(NCT04486378)が、2026年8月28日に終了が発表されました。この試験は2025年10月に事前に定めた無益性の境界を越えており、データ安全性モニタリング委員会は「両群の全生存に数値上の不均衡があり、継続しても有効性の結論は変わらない」と判断しています。不均衡の向きを含め、具体的な数値はまだ公表されていません。MRD陽性の時期であっても、ワクチンを単独で打てば再発を防げる、というほど話は簡単ではないことを示した結果です。
| 試験 | がん種 | 陽性の時期に入れた治療 | 結果 |
|---|---|---|---|
| IMvigor011 NEJM 2025 |
筋層浸潤性膀胱がん | アテゾリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬) | 無病生存 HR 0.64、全生存 HR 0.59。米国FDA承認(2026年5月) |
| c-TRAK TN Ann Oncol 2023 |
トリプルネガティブ乳がん | ペムブロリズマブ | 初回検出時に72%が既に転移。治療開始は5人のみ |
| ZEST 学会報告 2024 |
乳がん | ニラパリブ | 陽性7.7%。登録が進まず早期終了 |
| BNT122-01 2026年8月終了 |
大腸がん(ctDNA陽性) | autogene cevumeran 単独 | 無益性の境界を越え、2026年8月に終了。数値は未公表 |
研究の世界の話だったMRDが、この2年で承認や指針の文言に入り込んできました。ここが2026年のもっとも大きな変化です。
米国では、FDAが2024年11月に、早期の固形がんの医薬品開発でctDNAをどう使うかの指針を最終版として公表しました。抗がん剤を減らす目的なら陰性の確かさ(感度・陰性的中率)を、治療を足す目的なら陽性の確かさ(特異度・陽性的中率)を重視するよう求めています。血液がんでは、2024年4月の諮問委員会が多発性骨髄腫でMRDを迅速承認の評価項目として認める判断を12対0で示しました。2026年8月13日には、MRD陰性の完全奏効(41% 対 21%、対照はダラツムマブ・ボルテゾミブ・デキサメタゾン)を主要評価項目として、イベルドミドの併用療法が迅速承認されています。そして先に書いた5月の膀胱がんの承認です。
日本では2026年6月、Signateraの国内承認が発表されました(承認番号30800BZI00018000)。国内で初めてのMRD検査の承認です。添付文書に記載された用途は、ステージII〜IIIの大腸がんで根治切除をした後、術後抗がん剤の要否を判断する補助と、全ステージの大腸がんの再発リスク判定の2つです。添付文書では、再発に対する感度72.5%・特異度96.4%と記載され、比較対象の腫瘍マーカーCEAは感度35.4%・特異度84.9%でした。2026年9月には、膀胱がんでアテゾリズマブを使うかどうかを決める検査(コンパニオン診断)としての国内承認も発表されています。ただし、肝心のアテゾリズマブのこの用途は、中外製薬が2026年1月に承認を申請した段階で、11月5日時点で承認は確認できていません。保険収載は、どちらの用途も確認できていません。
指針の温度差も知っておいてください。日本臨床腫瘍学会の大腸がんの遺伝子関連検査ガイダンス第6版(2026年2月の意見募集版)は、根治切除後の再発リスク評価としてのMRD検査を「強く推奨」としています。これに対して、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の2022年の提言は「臨床的有用性の根拠がないため、日常診療では推奨できない」、米国のNCCNガイドラインも「臨床試験の外で日常的に使う根拠は不十分」という立場でした。同じデータを見ても、予後の情報として使うか、治療を変える根拠として求めるかで評価が分かれていると私たちは読んでいます。
⚠ MRD検査を読むときの6つの留保
① 予後は分かっても、治療の効き目までは分からない。ctDNA陽性は「再発しやすい」ことを強く示しますが、「この治療が効く」ことは示しません。大腸がんで抗がん剤の強化が上乗せを示せなかったのが、その証拠です。
② 再発前の時間は、がん種と検査間隔で大きく違う。大腸がんでは画像より平均8.7か月早く陽性になった報告がある一方、トリプルネガティブ乳がんでは初回検出時の72%が既に転移していました。
③ ctDNAが出にくい場所がある。血液だけで調べる方式(Guardant Reveal)を大腸がんの術後経過観察で評価した国内の研究では、再発の検出率が肝臓100%に対し、肺53%、腹膜40%でした(Clin Cancer Res 2024)。肺や腹膜だけの再発は、陰性のまま進むことがあります。
④ 血液細胞の変異が混ざる。年齢とともに血液細胞に生じる変異(クローン性造血)は、がん患者さまの血液中で見つかる変異の53.2%を占めていたという報告があります(Nat Med 2019)。腫瘍組織を使わない方式では、これを除く工夫が欠かせません。
⑤ 陰性は「ゼロ」ではない。IMvigor011で陰性のまま推移した方の2年無病生存率は約88%、DYNAMIC-IIIの陰性群の3年無再発生存率は87%でした。1回の陰性で経過観察をやめてよいわけではありません。
⑥ 重要な結果の一部は、まだ学会報告の段階。COBRA・ZESTなどは査読論文としての全文発表を確認できていません。数値は今後の論文で変わる可能性があります。
言いかえると、MRD検査は単独で治療方針を決める道具ではなく、画像・腫瘍マーカー・病理所見と並べて読む情報の一つです。検出力が上がっても、この位置づけはすぐには変わらないと考えています。
ここからは当院の話です。当院では、Signateraのような市販のMRD検査ではなく、独自にctDNAをみています。
ctDNAを追うことは、当院の治療設計と切り離せません。当院ではゲノムパネル検査(Guardant360、OncoGuide、FoundationOne CDx など)で見つかった変異を出発点に、患者さまご自身のHLAクラスIの6アレルとクラスIIに照らして、提示されやすいと予測されるペプチドを設計・作製し、樹状細胞ワクチン療法に用いています。変異を「標的」として使う考え方は、ctDNAで変異を「目印」として追う考え方と同じ土台の上にあります。詳しくはネオアンチゲンの解説をご覧ください。
また当グループは創業当初から、樹状細胞の作製にCD4エピトープ(MHCクラスII拘束の長鎖ペプチド)を使うことに取り組んできました。その設計には独自技術「HKHELP」を用いています。
私たちの立場は、最終的に患者さまご自身の免疫で再発を防ぐ、その核になるのが樹状細胞であるというものです。がんがごくわずかしか残っていないMRDの時期は、この考え方がもっとも生きる時期だと考えています。IMvigor010・011で、腫瘍量の少ない陽性の時期に免疫チェックポイント阻害薬が効いたことも、この見方と矛盾しません。ただし、ここまでは私たちの考えであって、試験で確かめられたことではありません。
ただし、はっきり書いておかなければならないことがあります。MRD陽性の時期に樹状細胞ワクチン療法を行い、再発を減らしたことを示した無作為化比較試験は、2026年11月時点でありません。大腸がんでmRNAワクチンを単独で用いた試験が、有効性を示せないまま終了したことも、先に書いたとおりです。また、当院の独自のctDNA測定が承認済みの検査より優れていることを示した比較試験もありません。だからこそ私たちは、ワクチンを標準治療の代わりにせず、土台の上に積むものとして設計しています。
ctDNAの値は、この設計を「いまどこにいるか」の手がかりとして読むものだと考えています。数値が上がったのか、下がったのか、消えたのか。その動きを、画像や腫瘍マーカーと並べて主治医と共有することが大切だと考えています。免疫チェックポイント阻害薬については免疫チェックポイント阻害薬のページに、遺伝子検査の考え方はプレシジョンメディシンについてに整理しています。
MRD検査を受けた方、これから受ける方に、結果を受け取ったときの考え方を4つの手順で整理します。治療の判断は必ず主治医と行ってください。
ステップ1:検査の方式と承認の有無を確かめる
腫瘍組織を使う方式か、血液だけの方式か。国内で承認された検査か、研究用・自費の検査か。方式によって感度も偽陽性の起こりやすさも違います。結果の数字を見る前に、まず物差しの種類を確認します。
ステップ2:1回の結果で決めず、時点を重ねて見る
1回の採血より、繰り返し測ったほうが再発を見つける力は上がります(大腸がんで55.6%→69.0%の報告)。術後の一定時点で測り、その後も間隔をあけて測ることで、増えているのか消えているのかという「動き」が見えてきます。
ステップ3:陽性なら、画像で確かめて選択肢を整理する
陽性の時点で、すでに画像で再発が見えている場合があります。まずCTやPET-CTなどで現状を確認し、そのうえで標準治療の選択肢、臨床試験、免疫療法の上乗せを主治医と整理します。膀胱がんのように、陽性を条件にした承認治療がある領域もあります。
ステップ4:陰性でも、通常の経過観察を続ける
陰性は再発しないという保証ではありません。肺や腹膜の再発はctDNAに出にくいことも分かっています。決められた画像検査や腫瘍マーカーの確認は、陰性でもそのまま続けます。
MRD検査は、手術や治療のあとに体内にわずかに残ったがん(微小残存病変)を、血液中のがん由来DNA(ctDNA)などから見つける検査です。主な対象は、手術でがんを取りきった方で、再発のリスクを見積もったり、経過を追ったりするために使われます。日本で承認されたSignateraの用途は、ステージII〜IIIの大腸がんで根治切除をした後、術後抗がん剤の要否を判断する補助です。
Signateraは2026年6月に大腸がん、9月に膀胱がんの用途で国内承認されましたが、2026年11月時点で保険収載は確認できていません。最新の状況は主治医または検査を行う医療機関にご確認ください。
必ずではありませんが、再発のリスクは高くなります。国内のGALAXY研究では、術後2〜10週の時点で陽性だった方の24か月無病生存率は20.57%でした。陽性の時点ですでに画像で再発が見えている場合もあるため、まず画像検査で現状を確かめ、主治医と次の選択肢を整理することをおすすめします。
自己判断でやめないでください。ステージIIの大腸がん(DYNAMIC試験)では、ctDNAで抗がん剤を減らしても再発率が変わらなかった一方、ステージIIIの大腸がん(DYNAMIC-III試験)では、陰性で抗がん剤を軽くした群が標準治療と同等とは言い切れない結果でした。陰性でも再発する方はいます。治療の判断は必ず主治医と行ってください。
膀胱がんでは、ctDNA陽性の方への免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブが無病生存期間と全生存期間を延ばし、米国で承認されました。一方、大腸がんで個別化mRNAワクチンを単独で用いた試験は、有効性を示せる見込みがないとして終了しています。がん種と治療の種類によって結果は異なり、樹状細胞ワクチン療法についてはMRD陽性の時期での無作為化比較試験はまだありません。当院では標準治療を土台に、免疫療法を上乗せする形で個別に検討しています。
当院では、市販のMRD検査ではなく独自の方法でctDNAをみています。対象となるかどうかは病状や治療歴によって異なるため、まずは無料医療相談でお伺いします。当院の治療はすべて自費診療(保険適用外)です。費用は改定される場合があるため、最新の金額は料金表をご確認ください。
本コラムは、各試験の原著論文・公式発表・規制当局の資料に基づいて書いています。ただしCOBRA・ZESTなど一部の結果は学会報告の段階で、査読論文の全文を確認できていません。大腸がんのctDNA陽性者を対象にしたautogene cevumeranの試験は、終了の事実のみが公表され、数値は出ていません。日本での承認・保険収載の状況は、2026年11月5日時点で確認できた公表資料に基づいています。試験で確かめられていない私たちの考えは、本文中でその旨を書き添えました。MRDの分野は動きが速く、半年で景色が変わります。実際の検査・治療の判断は、必ず担当の医療機関で最新の情報に基づいて行ってください。
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出典(一次情報)
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3. Tie J, et al. Circulating tumor DNA analysis guiding adjuvant therapy in stage II colon cancer (DYNAMIC). N Engl J Med. 2022;386(24):2261-2272. DOI: 10.1056/NEJMoa2200075(ACTRN12615000381583)
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5. Tie J, Wang Y, Loree JM, et al. DYNAMIC-III. Nat Med. 2025;31(12):4291-4300. DOI: 10.1038/s41591-025-04030-w(ACTRN12617001566325)
6. Bando H, et al. Post-adjuvant chemotherapy in ctDNA-positive patients with resected colorectal cancer: a randomized phase 3 trial (ALTAIR). Nat Med. 2026;32(7):2473-2480. DOI: 10.1038/s41591-026-04428-0(NCT04457297)
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監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。