投稿日:2024.10.15/更新日:2026.9.13
この記事でわかること
西川伸一先生が運営するAASJにおいて、中外製薬が開発中の有望なペプチド医薬型RAS阻害剤が紹介されたことは、私の記憶に新しいです。(2023年12月31日 | AASJホームページ)
世界的に、RAS阻害剤の開発はますます活発化しています。
現在、KRASG12C変異をターゲットにした薬剤として承認されているのは、ソトラシブ(G12C変異専用)だけです。そのため、遺伝子パネル検査を受けても、適応する薬がある患者様は全体の約15%程度にとどまっています。
しかし、近い将来、マルチセレクティブRAS阻害剤の登場により、多くの患者様に対してより効果的な治療が提供できる可能性があります。中外製薬の独創的な技術で開発中の環状ペプチドRAS阻害剤は、耐性が出現しにくいという特徴があるかもしれません。現在、この薬剤はPhase 1試験を終了し、次の開発段階に進んでいます。
『Concurrent inhibition of oncogenic and wild-type RAS-GTP for cancer therapy』(Nature, 2024年4月8日号)によれば、RASがん遺伝子(特にKRAS)は、がんで最も頻繁に変異する遺伝子の一つです。一般的なドライバー変異は、コドン12、13、そして611に見られます。
KRAS(G12C)オンコプロテインを標的とする小分子阻害剤は、複数のがんタイプで臨床的な有効性を示し、特に非小細胞肺がん治療では承認されています。しかし、KRASG12C変異はKRAS変異が見られるがん全体の約15%にすぎません。他のKRAS変異を持つ腫瘍患者には、承認されたKRAS阻害剤がないのが現状です。
今回紹介するのは、幅広いスペクトラム活性を持つ可逆的三重複合RAS阻害剤「RMC-7977」です。この薬剤は、変異型および野生型のKRAS、NRAS、HRAS変異体に対して有効なRAS(ON)マルチセレクティブ阻害剤です。
前臨床試験では、RMC-7977はさまざまなRAS依存性腫瘍に対して強力な活性を示しました。特に、KRASコドン12変異(KRASG12X)を持つがんモデルにおいて効果的であり、腫瘍の縮小を引き起こしました。また、さまざまなRAS依存性前臨床がんモデルでも良好な耐容性が確認されています。
さらに、RMC-7977は、KRAS(G12C)阻害剤に耐性を持つKRASG12Cがんモデルの成長も抑制することができました。これは、RAS経路シグナルの回復によるものです。
RAS(ON)マルチセレクティブ阻害剤は、複数のがん原性および野生型RASアイソフォームを標的とするため、広範囲のRAS依存性がんに対して新しい治療の可能性を秘めています。現在、関連するRAS(ON)マルチセレクティブ阻害剤「RMC-6236」も、KRAS変異型固形腫瘍患者を対象に臨床評価が進められています(NCT05379985)。
プレシジョンクリニックグループ
岡崎能久

当院の実例
手術不能の肺がんステージ4(縦隔リンパ節・対側肺転移)で、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬に樹状細胞ワクチン療法を併用し、仕事を続けながら6年経過している63歳男性
ステージ4の肺がんと診断され、抗がん剤(パラプラチン+S-1)で治療を開始。1年後に樹状細胞ワクチン療法を加え、その後も抗がん剤の変更、オプジーボやテセントリクなど免疫チェックポイント阻害薬の導入と、状況に応じて組み合わせを変えてきました。肺がんは6年かけてゆっくり大きくなっていますが、仕事を休むことなく生活の質を保ったまま初回診断から6年が経過し、現在はオプジーボと樹状細胞ワクチン療法を併用中です。RAS阻害薬の承認を待つ間も「進行を止め続ける」設計があることを示す症例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
2026年時点で日本では未承認です。米国では2026年に膵臓がんを対象に承認され、肺がんでも臨床試験が進んでいます。国内承認までの間の治療設計は、当院のRAS変異がん専門外来でご相談いただけます。
多くの場合、RAS経路のシグナルが別の経路で回復する耐性が起こります。多変異型RAS阻害薬はこの耐性を乗り越える可能性が前臨床で示されています。承認前の現時点では、抗がん剤や樹状細胞ワクチン療法との組み合わせで進行を抑える設計を検討します。
正常細胞のRASも抑えるため、皮疹や口内炎、下痢などの副作用が報告されています。前臨床では良好な忍容性とされましたが、臨床での安全性は試験の結果を待つ必要があります。当院では治験情報と副作用の考え方を含めてご説明します。