投稿日:2026.8.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
乳房がんの治療は、手術や薬物療法だけでなく、生活習慣病の管理や早期発見の精度向上など多面的な広がりを見せています。日々の外来でも、再発予防のために日常生活で何ができるか尋ねられる場面が増えました。2026年7月は、代謝に関わる既存薬の再発抑制データから国内の大規模検診研究、ゲノム創薬の最新動向まで、今後の乳癌診療に影響を与える報告が届いています。
糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬を服用している乳がん患者において、遠隔転移のリスクが32%低下したという研究成果が発表されました。
台湾の三軍総医院(Tri-Service General Hospital)のチームが解析した結果によるものです。これまでも基礎実験において、腫瘍細胞のエネルギー代謝を抑える可能性が示唆されていました。今回の報告は、日常的に使われている薬剤が乳癌の再発抑制に寄与する可能性を示した点で注目を集めています。
腫瘍の微小環境では、がん細胞が大量の糖を取り込んで急速に増殖します。SGLT2阻害薬は余分な糖を尿中へ排出させる薬剤ですが、この糖の利用を遮断する働きが転移抑制に関係していると考えられています。がん細胞の生存環境そのものを兵糧攻めにするアプローチです。
ただし、この結果は観察研究に基づく知見であり、現時点で乳房がんの再発予防のみを目的に処方することは認められていません。糖尿病を合併していない患者さまへの適応拡大には、今後の臨床試験による検証が必要です。
当院でも患者さまから、糖尿病の持病があるけれど治療をどう両立すべきかと相談を受けることがよくあります。すでに血糖降下薬を飲んでいる方は、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
40代女性を対象とした乳がん検診において、マンモグラフィと超音波検査を併用する有効性を検証したJ-START研究の長期追跡調査が継続されることになりました。
東北大学の大規模研究グループが主導し、7万人以上のデータを集めた世界的な臨床試験です。日本の若い女性に多い高濃度乳房では、マンモグラフィ単独では病変が白く隠れて見逃される危険性がありました。超音波検査を組み合わせることで、発見率が有意に向上することが既に実証されています。
今回の取り組みは、検診で早く見つけることが長期的な生存率の改善につながったかを確かめる極めて価値の高い追跡です。20年におよぶデータを未来へつなぐため、研究費の継続的な確保が進められています。早期発見の確実性をどこまで高められるかは、多くの受診者にとって切実な問題です。
私たちの外来でも、人間ドックでどちらの検査を選べばよいのか分からないという声を頻繁に耳にします。乳腺の密度は個人差が大きいため、乳房の性状に合わせた検査を選ぶ視点が欠かせません。
検診の受け方に迷ったときは、過去の画像所見を持参して主治医に確認してみることをおすすめします。当グループでも個々の乳腺状態に合わせた画像検査の相談を受け付けています。
がん細胞のゲノム増幅を引き起こす染色体外DNAを標的とした新薬開発において、米国バイオベンチャーの事業統合が発表されました。
Nasdaq上場の米Boundless Bio社と米Serapha Bio社が合併契約に合意したものです。染色体外DNAは、通常の染色体から切り離された環状のDNAを指します。乳がんの一部などでHER2遺伝子や特定のがん遺伝子が増幅し、薬物治療への耐性を獲得する主因として解明が進んでいました。
これまでの分子標的薬は、増殖の信号を出すタンパク質そのものを抑える仕組みが主流でした。これに対して染色体外DNAを標的とする治療は、遺伝子増幅の根本的な構造や修復経路を阻害することを目指しています。既存の抗がん剤が効かなくなった進行期の乳癌に対しても、新たな治療の選択肢をもたらすと期待されています。
この技術は将来の実用化を目指す研究開発の段階にあり、すぐに保険診療で受けられる治療ではありません。とはいえ、遺伝子変異を網羅的に調べるゲノム解析の現場では、耐性機序の解明に直結する大きな前進です。
がん遺伝子パネル検査の意義や最新の創薬動向について詳しく知りたいときは、専門医や当グループにご相談ください。
当院の実例
トリプルネガティブ乳がんステージ4(肺転移)で、樹状細胞ワクチン療法を続け術後4年以上再発なく経過している40代女性
化学療法と乳房全摘の後に肺転移が出現。樹状細胞ワクチン療法を開始し、左上葉切除後は抗がん剤を使わずワクチン単独で経過をみました。投与部位に100mm大の強い免疫反応を認め、免疫の活性化が示唆されました。免疫療法開始から4年以上、再発なく経過しています。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
2026年7月は、代謝に着目した薬剤の再発抑制効果から検診の大規模追跡、ゲノム解析に基づく次世代創薬まで幅広い進展が見られました。乳がん診療は、腫瘍の性質だけでなく全身の代謝環境や一人ひとりの遺伝子異常を総合的に捉える時代へ進んでいます。
プレシジョンクリニックグループは、創業以来乳がんの治療と研究に最も注力してきました。当グループでは、個々の患者さまの腫瘍微小環境や網羅的ゲノム解析に基づいた個別化医療の実績を積み上げています。日々の検査結果や治療選択でお悩みの際は、いつでも私たちにご相談ください。
今回の報告は糖尿病治療でSGLT2阻害薬を内服していた方で遠隔転移リスクが低かったという観察結果です。転移予防を目的に処方が認められている薬ではなく、因果関係は今後の検証が必要です。主治医と相談してください。
40代は乳腺が密でマンモグラフィだけでは見つけにくい場合があり、超音波を併用すると発見率が上がることがJ-START研究で示されています。長期の追跡で死亡率への影響が検証されています。
あります。当院ではトリプルネガティブ乳がんの術後に樹状細胞ワクチン療法を続け、12年間再発なく経過している方や、肺転移後に4年以上無再発の方を経験しています。効果には個人差があります。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。