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この記事でわかること
- HIPEC(温熱腹腔内化学療法)の定義と仕組み
- なぜ「温める」のか——温熱増感と薬理学的優位性
- がん種別の使用薬剤
- 主要なエビデンス(OVHIPEC-1・PRODIGE 7)
- 副作用・合併症リスク
- HIPECが適応外の場合に検討できる選択肢
Definition
HIPEC(Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy/温熱腹腔内化学療法)とは、CRS(腫瘍減量手術)直後に、41〜43℃前後に加温した抗がん剤溶液を腹腔内に30〜90分間灌流させる治療法です。腹腔内の残存微小がん細胞への局所効果を目的とします。
CRS(腫瘍減量手術)で肉眼的に腫瘍を取り除いた後でも、顕微鏡レベルのがん細胞が腹腔内に残存することがあります。HIPECはその残存がん細胞に対して、加温した抗がん剤を腹腔内に直接流し込むことで局所効果を試みる治療法です。CRSとHIPECは組み合わせて行われることがありますが、適応はがん種・播種範囲・全身状態によって異なります。
HIPECの理論的根拠——なぜ「温める」のか
温熱増感効果
がん細胞は正常細胞と比べて熱に弱い性質があります。41〜43℃の加温はがん細胞のDNA修復能力を低下させ、抗がん剤の感受性を高める(温熱増感)効果が期待されます。また熱そのものにも細胞傷害作用があるとされています。
薬理学的優位性(腹腔内高濃度)
腹腔内に直接薬剤を投与することで、薬剤によっては全身投与より腹腔内濃度を高められるとされています。同時に血中濃度は比較的低く抑えられる可能性がありますが、腎毒性・骨髄抑制などの全身性副作用が起こらないわけではありません。
腹腔内濃度や薬剤の浸透深度は、がん種・薬剤・灌流時間・施設プロトコルによって大きく異なります。大きな残存腫瘍には薬剤が十分に届きにくい可能性があるため、CRSで肉眼的病変をどこまで減らせるかが重要になります。
HIPEC実施の流れ
1CRS完了後、腹腔内にチューブを留置
流入・流出用のカテーテルを腹腔内に配置し、灌流回路を構築します。
241〜43℃に加温した抗がん剤溶液を準備
がん種に応じた薬剤(シスプラチン・マイトマイシンC・オキサリプラチン等)を選択・調製します。
330〜90分間、腹腔内に灌流
加温した抗がん剤を腹腔内で循環させ、残存微小がん細胞に直接作用させます。腹部を均一に温めるため、腹壁を手で揺らすなどの手技を組み合わせる施設もあります。
がん種別の使用薬剤
| がん種 |
主な使用薬剤 |
備考 |
| 卵巣がん |
シスプラチン(単剤または併用) |
初回治療中の進行卵巣がんを対象にしたOVHIPEC-1試験で生存改善を報告 |
| 大腸がん腹膜播種 |
マイトマイシンC/オキサリプラチン |
PRODIGE 7試験では短時間オキサリプラチンHIPECの全生存期間上乗せを確認できず |
| 腹膜偽粘液腫 |
マイトマイシンC |
最もエビデンスが確立されたがん種 |
| 胃がん腹膜播種 |
パクリタキセル/シスプラチン |
研究段階の要素があり、適応は慎重に判断される |
| 悪性腹膜中皮腫 |
シスプラチン+ドキソルビシン |
専門施設で検討されることがある |
※使用薬剤・濃度・灌流時間は施設・術者・患者さまの状態によって異なります。
主要なエビデンス
OVHIPEC-1試験(卵巣がん)
初回治療中の進行卵巣がんでinterval debulking surgeryを受ける患者を対象に、手術単独と手術+シスプラチンHIPECを比較。HIPEC追加群で無増悪生存期間と全生存期間の改善が報告されました。2018年 New England Journal of Medicine に掲載。
PRODIGE 7試験(大腸がん腹膜播種)
大腸がん腹膜播種を対象に、CRS単独とCRS+短時間オキサリプラチンHIPECを比較。HIPEC追加による全生存期間の上乗せは確認されず、術後合併症の増加が問題になりました。2021年 Lancet Oncology に掲載。
エビデンスの強さと治療上の位置づけは、がん種によって大きく異なります。卵巣がんや腹膜偽粘液腫では専門施設で検討されることがありますが、大腸がんや胃がんでは、薬剤・手技・対象患者の選択を含めて慎重な解釈が必要です。
副作用・合併症リスク
HIPECはCRSと連続して行われる大手術です。HIPECに特有の副作用に加え、CRS由来の合併症も合わせると全体の合併症リスクは高くなります。
HIPECに関連する主な副作用
- 腎毒性(シスプラチン使用時に特に注意)
- 骨髄抑制(白血球・血小板の減少)
- 腸管吻合部の縫合不全
- 感染症・発熱
- 電解質異常
合併症リスクは、対象疾患、切除範囲、使用薬剤、施設経験によって大きく異なります。CRS/HIPECを検討する場合は、経験豊富な専門施設で適応とリスクを確認することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. HIPECとはどんな治療法ですか?
CRS直後に41〜43℃前後に加温した抗がん剤溶液を腹腔内に30〜90分間灌流させる治療法です。残存微小がん細胞への局所効果を目的とします。
Q. HIPECはなぜ温めた抗がん剤を使うのですか?
加温によって抗がん剤の作用が増強される可能性があるためです。また腹腔内直接投与により、薬剤によっては腹腔内濃度を高められるとされています。
Q. HIPECはどんながん種に行われますか?
卵巣がん・腹膜偽粘液腫・悪性腹膜中皮腫・大腸がん腹膜播種・胃がん腹膜播種などで行われます。がん種によりエビデンスの強さが異なります。
Q. HIPECのエビデンスはどのくらいありますか?
卵巣がんではOVHIPEC-1試験で生存改善が報告されています。大腸がんではPRODIGE 7試験で短時間オキサリプラチンHIPECの全生存期間上乗せは確認されませんでした。がん種によりエビデンスの強さが異なります。
Q. HIPECの副作用は何ですか?
腎毒性・骨髄抑制・腸管縫合不全・感染症などが主な副作用です。CRS+HIPECは6〜12時間の大手術で総合的な合併症リスクがあります。
HIPECが適応外の場合の選択肢
CRS+HIPECの適応がない腹膜播種(PCIスコアが高い・全身状態が手術に耐えられない・術後再発 等)でも、全身薬物療法、支持療法、臨床試験、免疫療法を含む補完的な選択肢を確認できる場合があります。
プレシジョンクリニックでは、HIPECそのものは実施していません。腹膜播種の患者さまに対して、バイオマーカー・治療歴・全身状態を確認し、標準治療を軸に次に確認すべき選択肢をご提案します。
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※本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。治療の適応・実施については必ず担当医にご確認ください。治療効果には個人差があります。
【監修者】矢﨑 雄一郎
プレシジョンクリニック東京院長。免疫療法・樹状細胞ワクチン療法を専門とし、腹膜播種症例を多数経験。腹膜播種に対するSynerTri®(iCCI)の設計・実施に携わる。
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