投稿日:2024.10.26/更新日:2026.9.19
この記事でわかること
ルマケラス(Lumakras)は、アムジェン(Amgen)によって開発された、KRAS G12C変異に対する経口治療薬です。KRAS遺伝子は、癌の発生や進行に関与する主要な遺伝子の一つであり、その変異は特に難治性のがんに関係しています。KRAS G12C変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)など特定のがんで多く見られる変異ですが、膵臓がんにおいても一部の患者にこの変異が認められます。
膵臓がんは非常に治療が難しいがんであり、KRAS遺伝子の変異が90%以上の患者に見られることが知られています。特に膵臓がんにおいては、KRASのG12DやG12V変異が一般的ですが、一部の患者にはKRAS G12C変異が存在します。このKRAS G12C変異がある患者に対して、ルマケラスのような治療薬が有効である可能性が注目されています。
ルマケラスはKRAS G12Cという特定の変異を標的とし、変異したKRASタンパク質の活性を阻害することによってがん細胞の増殖を抑える薬です。KRAS G12C変異は、タンパク質が「スイッチオン」の状態で持続することで細胞がん化の原因となるため、ルマケラスはこの変異タンパク質を「スイッチオフ」の状態にし、腫瘍の進行を抑える役割を果たします。
膵臓がんの治療は非常に困難で、手術や化学療法に加えて、標的治療や免疫療法が模索されていますが、KRAS変異が原因で治療の選択肢が限られることが多いです。膵臓がん患者の中でKRAS G12C変異を持つ人は少数派ですが、この変異が確認された場合、ルマケラスが治療オプションとして考えられる可能性があります。
現在、ルマケラスは主にKRAS G12C変異を持つ非小細胞肺がんの患者に対して承認されていますが、膵臓がんなど他のがん種に対しても臨床試験が進行しています。膵臓がんにおけるKRAS G12C変異に対する治療法の一環として、ルマケラスがどのような効果を発揮するかについては、今後の研究結果次第で明らかになるでしょう。
要約すると、ルマケラスはKRAS G12C変異に特異的に作用する画期的な薬剤であり、膵臓がんの治療においてもこの変異を持つ患者に対する新たな治療オプションとして期待されていますが、膵臓がんでの臨床使用にはさらに研究が必要です。
当院の実例
多発肺・肝・副腎転移を伴う膵体部がんステージ4bで余命1か月と説明された52歳男性に、抗がん剤と活性化リンパ球療法・樹状細胞ワクチン療法を併用し、原発巣と多発肝転移の縮小を確認した症例
糖尿病の通院中に肝胆道系の数値が上がり、精査で膵体部がんと多発転移が判明。手術は不能で、主治医からは余命1か月と説明されていました。抗がん剤(ジェムザール+TS-1)に続いて活性化リンパ球療法を始め、3か月後に樹状細胞ワクチン療法を追加したところ、膵体部の原発巣と多発肝転移の縮小が確認されました。承認済みのKRAS阻害薬の対象にならない変異型でも、免疫を軸に治療を組み立てられることを示す一例です。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
2026年時点で日本の保険適用は非小細胞肺がん(KRAS G12C変異)のみで、膵臓がんには承認されていません。膵臓がんでG12C変異を持つ方は1〜2%程度と少なく、該当する場合は治験や適応外使用の可能性を含めて当院のRAS変異がん専門外来でご相談ください。
遺伝子パネル検査(組織)または血液のリキッドバイオプシーで変異の型まで判定できます。検査の手配と結果の解釈は当院で行います。
あります。G12DやG12V向けの阻害薬は治験段階ですが、その間も抗がん剤に樹状細胞ワクチン療法や活性化リンパ球療法を組み合わせて進行を抑える設計が可能です。米国で承認された多変異型RAS阻害薬の国内動向も、外来で随時お伝えしています。
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。