2026.6.16
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この記事でわかること
Definition
HIPEC(Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy/温熱腹腔内化学療法)とは、CRS(腫瘍減量手術)直後に、41〜43℃前後に加温した抗がん剤溶液を腹腔内に30〜90分間灌流させる治療法です。腹腔内の残存微小がん細胞への局所効果を目的とします。
CRS(腫瘍減量手術)で肉眼的に腫瘍を取り除いた後でも、顕微鏡レベルのがん細胞が腹腔内に残存することがあります。HIPECはその残存がん細胞に対して、加温した抗がん剤を腹腔内に直接流し込むことで局所効果を試みる治療法です。CRSとHIPECは組み合わせて行われることがありますが、適応はがん種・播種範囲・全身状態によって異なります。
がん細胞は正常細胞と比べて熱に弱い性質があります。41〜43℃の加温はがん細胞のDNA修復能力を低下させ、抗がん剤の感受性を高める(温熱増感)効果が期待されます。また熱そのものにも細胞傷害作用があるとされています。
腹腔内に直接薬剤を投与することで、薬剤によっては全身投与より腹腔内濃度を高められるとされています。同時に血中濃度は比較的低く抑えられる可能性がありますが、腎毒性・骨髄抑制などの全身性副作用が起こらないわけではありません。
腹腔内濃度や薬剤の浸透深度は、がん種・薬剤・灌流時間・施設プロトコルによって大きく異なります。大きな残存腫瘍には薬剤が十分に届きにくい可能性があるため、CRSで肉眼的病変をどこまで減らせるかが重要になります。
| がん種 | 主な使用薬剤 | 備考 |
|---|---|---|
| 卵巣がん | シスプラチン(単剤または併用) | 初回治療中の進行卵巣がんを対象にしたOVHIPEC-1試験で生存改善を報告 |
| 大腸がん腹膜播種 | マイトマイシンC/オキサリプラチン | PRODIGE 7試験では短時間オキサリプラチンHIPECの全生存期間上乗せを確認できず |
| 腹膜偽粘液腫 | マイトマイシンC | 最もエビデンスが確立されたがん種 |
| 胃がん腹膜播種 | パクリタキセル/シスプラチン | 研究段階の要素があり、適応は慎重に判断される |
| 悪性腹膜中皮腫 | シスプラチン+ドキソルビシン | 専門施設で検討されることがある |
※使用薬剤・濃度・灌流時間は施設・術者・患者さまの状態によって異なります。
エビデンスの強さと治療上の位置づけは、がん種によって大きく異なります。卵巣がんや腹膜偽粘液腫では専門施設で検討されることがありますが、大腸がんや胃がんでは、薬剤・手技・対象患者の選択を含めて慎重な解釈が必要です。
HIPECはCRSと連続して行われる大手術です。HIPECに特有の副作用に加え、CRS由来の合併症も合わせると全体の合併症リスクは高くなります。
HIPECに関連する主な副作用
合併症リスクは、対象疾患、切除範囲、使用薬剤、施設経験によって大きく異なります。CRS/HIPECを検討する場合は、経験豊富な専門施設で適応とリスクを確認することが重要です。
CRS+HIPECの適応がない腹膜播種(PCIスコアが高い・全身状態が手術に耐えられない・術後再発 等)でも、全身薬物療法、支持療法、臨床試験、免疫療法を含む補完的な選択肢を確認できる場合があります。
プレシジョンクリニックでは、HIPECそのものは実施していません。腹膜播種の患者さまに対して、バイオマーカー・治療歴・全身状態を確認し、標準治療を軸に次に確認すべき選択肢をご提案します。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。治療の適応・実施については必ず担当医にご確認ください。治療効果には個人差があります。

【監修者】矢﨑 雄一郎
プレシジョンクリニック東京院長。免疫療法・樹状細胞ワクチン療法を専門とし、腹膜播種症例を多数経験。腹膜播種に対するSynerTri®(iCCI)の設計・実施に携わる。