投稿日:2026.8.27/更新日:2026.8.28
2026年8月26日(米国現地時間)、米国食品医薬品局(FDA)が、膵臓がん新薬ダラクソンラシブ(daraxonrasib/米国販売名:RASONQUE、日本語では「ラソンク」とも表記)を正式に承認しました。転移性膵腺癌に対する分子標的薬の承認は、これが世界で初めてです。長年「薬で標的にできない(undruggable)」とされてきたRAS遺伝子変異を直接ねらう治療が、ついに実際の医療現場で使える段階に入りました。本記事では、承認の内容と、日本の患者さんにとって何が変わり、何が変わらないのかを専門医が解説します。
【重要】日本国内では未承認です。今回の承認は米国でのものであり、日本では現時点(2026年8月)でダラクソンラシブは承認されておらず、保険診療での使用はできません。
📌 ダラクソンラシブの基礎(作用機序・副作用・KRAS変異検査・日本での見通しなど)は、「ダラクソンラシブとは|RAS変異膵臓がん新薬・最新エビデンス完全解説」で詳しく解説しています。
RAS変異がん専門外来
米国での承認は、日本での使用を意味するものではありません。一方で、今後の国内動向、遺伝子検査、標準治療と免疫療法を組み合わせた戦略など、いま準備できることはあります。遺伝子検査の結果や現在の治療状況をふまえ、検討すべき選択肢を一つひとつ丁寧にご相談します。
この記事でわかること
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 承認日 | 2026年8月26日(米国現地時間) |
| 一般名 | ダラクソンラシブ(daraxonrasib/開発コード RMC-6236) |
| 米国販売名 | RASONQUE |
| 開発会社 | Revolution Medicines, Inc.(米国カリフォルニア州) |
| 承認された適応 | 1つ以上の全身療法を受けた、または多剤併用全身療法の適応とならない成人の転移性膵腺癌 |
| 用法 | 1日1回、経口(錠剤) |
| 承認の根拠 | 第III相試験 RASolute 302(NCT06625320) |
| 日本での承認 | 未承認(2026年8月時点) |
審査はFDA長官の「National Priority Voucher(国家優先バウチャー)」パイロットプログラムの下で行われました。新薬承認申請が受理されたのが2026年7月22日で、承認までわずか約1ヶ月。本来の審査期限より6.5ヶ月早い決定でした。膵がんという疾患における未充足の医療ニーズの大きさが、この異例の速さに表れています。
今回の承認で、臨床的に最も注目すべき点がここです。ダラクソンラシブの処方にあたって、コンパニオン診断(治療薬とセットで行う遺伝子検査)は必要とされていません。RAS変異が確認されている患者も、確認されていない患者も、承認された適応の範囲に含まれます。
これは、第一世代のKRAS阻害薬とは大きく異なる点です。ソトラシブやアダグラシブは「KRAS G12C変異を持つ患者のみ」が対象で、投与前に変異の確認が必須でした。膵がんではG12C変異を持つ患者は1%未満のため、恩恵を受けられる方はごくわずかでした。
なぜこうなったのか。根拠となった第III相試験RASolute 302が、RAS変異の有無を問わずに患者を登録し、RAS G12変異を持つ集団と、変異の有無を問わない全体集団の両方で、ほぼ同一の結果を示したからです。全生存期間中央値はどちらも13.2ヶ月、ハザード比はどちらも0.40でした。この一貫性が、変異による限定のない承認につながったと考えられます。
ただし補足すると、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は2026年8月19日に診療ガイドラインを緊急改訂した際、RAS G12変異陽性かつ全身状態良好(ECOG PS 0-1)の患者への使用を推奨しており、FDAの承認適応より狭い範囲を推奨しています。同じエビデンスに基づきながら、規制当局の承認範囲と学会の推奨範囲が異なる形になっており、実際にどの範囲の患者に用いるかは、今後の実診療データの蓄積を待つ部分があります。
第III相試験RASolute 302は、標準的な一次治療を受けた後に進行した転移性膵腺癌の患者500例を対象に、ダラクソンラシブ単剤と医師選択の標準化学療法を比較した国際共同試験です(6カ国59施設)。
RAS G12変異集団(228例 vs 231例)
全体集団(248例 vs 252例)
この結果は2026年5月31日のASCO(米国臨床腫瘍学会)Plenary Sessionで発表され、同日 New England Journal of Medicine に論文掲載されました。詳細は【ASCO 2026速報】の記事で解説しています。
| 項目 | ダラクソンラシブ群 | 化学療法群 |
|---|---|---|
| Grade 3以上の治療関連有害事象 | 43.6% | 57.5% |
| 重篤な治療関連有害事象 | 10.8% | 18.7% |
| 副作用による治療中止 | 1.2% | 11.2% |
副作用による治療中止が1.2%と、化学療法群の11.2%に対して約9分の1にとどまった点は、治療を続けられるかどうかという現実的な観点から重要です。FDAが公表した主な副作用は、皮疹、下痢、口内炎、悪心、嘔吐、腹痛、浮腫、食欲低下、出血です。主たる毒性は皮膚症状で、適切な管理が治療継続の鍵になります。
率直に申し上げると、今日この時点で、日本国内の診療が直接変わるわけではありません。ダラクソンラシブは日本では未承認であり、保険診療で使うことはできません。米国での承認は、日本での使用を意味しないという点は、改めて強調しておきます。
一方で、意味が変わったこともあります。これまでは「有望な結果が出た開発中の薬」でしたが、今後は「米国で承認され、実際に使われはじめた薬」として国内での議論が進むことになります。国際的な標準治療の位置づけを得た薬剤は、日本での承認申請・審査においても重要な参照材料となります。
日本での承認時期について公式発表はありません。一般に、FDA承認から日本での承認までには1〜3年程度を要することが多く、2027年〜2029年頃という見通しが一つの目安として考えられますが、これはあくまで一般的傾向からの推論です。膵がんという疾患の重篤性を踏まえれば、より早まる可能性もあります。
いま準備できることとしては、ご自身の腫瘍のKRAS(RAS)変異の状態を把握しておくことが挙げられます。FDAの承認では変異検査は必須とされていませんが、変異の型(G12D/G12V/G12Rなど)を知っておくことは、今後の治療選択肢を検討するうえで有用です。がん遺伝子パネル検査やリキッドバイオプシーで確認できます。
RAS変異がん専門外来
プレシジョンクリニックグループの日本初のRAS変異がん専門外来では、がん遺伝子パネル検査・リキッドバイオプシーによるKRAS変異の確認から、標準治療と免疫療法を組み合わせた治療戦略の整理まで、一人ひとりの状況に合わせてご相談を承っています。
今回の承認は膵がん治療における大きな節目ですが、冷静に整理しておくべき点もあります。
この薬は治癒をもたらすものではありません。全生存期間の中央値は13.2ヶ月で、化学療法の約2倍にはなりましたが、依然として厳しい数字です。「膵がんが治る薬ができた」という理解は正確ではありません。
耐性の問題も残ります。分子標的薬では一般に、治療開始から一定期間で耐性が出現します。ダラクソンラシブの耐性メカニズムと、耐性が生じた後の治療戦略は、今後の重要な研究課題です。
だからこそ、当グループは分子標的薬と免疫療法を組み合わせる戦略に注目しています。RASシグナルの遮断は、腫瘍微小環境(TME)を免疫が働きやすい状態へ変化させる可能性が報告されています。シグナルを直接止める分子標的薬の即効性と、免疫記憶による持続性を併せ持つ複合的なアプローチが、次の課題への答えになりうると考えています。
なお、膵がんにおけるダラクソンラシブの開発は既治療の段階にとどまりません。一次治療(RASolute 303)、術後補助療法(RASolute 304)でも第III相試験が進行中で、非小細胞肺がんでも第III相試験(RASolve 301)が走っています。今回の承認は、一連の展開の入り口にあたります。
いいえ。2026年8月時点で日本では未承認であり、保険診療での使用はできません。日本での承認時期については公式発表がなく、一般的な傾向からは2027年〜2029年頃という見通しが考えられますが、これは推論であり確定的なものではありません。
FDAが承認した適応には、RAS変異の有無による限定はなく、コンパニオン診断も必要とされていません。したがって米国では、変異が確認されていない方も適応の範囲に含まれます。ただしESMOのガイドラインはRAS G12変異陽性の患者への使用を推奨しており、学会推奨はより狭い範囲です。いずれにせよ日本では未承認のため、現時点で国内の保険診療で使用することはできません。
第III相試験では、Grade 3以上の治療関連有害事象はダラクソンラシブ群43.6%、化学療法群57.5%で、重い副作用はむしろ化学療法より少ない結果でした。副作用による治療中止も1.2%対11.2%と大きな差があります。ただし副作用の「質」は異なり、ダラクソンラシブでは皮疹などの皮膚症状が多く、化学療法では好中球減少や貧血が多くみられます。
RAS変異がん専門外来
プレシジョンクリニックグループでは、KRAS変異を標的とした樹状細胞ワクチン療法・免疫チェックポイント阻害薬・腫瘍微小環境(TME)の調整など、患者さんお一人おひとりに最適化された複合的がん免疫療法をご提案しています。ダラクソンラシブをはじめとするRAS阻害薬の動向も継続的に追跡しています。遺伝子検査の結果や現在の治療状況をふまえ、検討すべき選択肢を一つひとつ丁寧にご相談します。
【表記について】一般名は「ダラクソンラシブ(daraxonrasib)」です。「ダラキソンラシブ」と表記・検索されることがありますが、「ダラクソンラシブ」が正しい表記です。
米国での販売名は「RASONQUE」で、日本語では「ラソンク」「ラゾンク」などと表記・検索されることがありますが、日本での販売名は決まっていません(2026年8月時点・日本国内未承認)。本記事では米国での販売名として英字表記を用いています。
【免責事項】本記事は、2026年8月27日時点で公表されているFDA公式発表・査読論文・ESMO診療ガイドライン・開発企業の公式発表・主要医学メディア報道に基づいて作成しています。ダラクソンラシブは日本国内では未承認であり、保険診療での使用はできません。本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【監修】矢﨑雄一郎(プレシジョンクリニック東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア)
【最終更新日】2026年8月27日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。