投稿日:2026.6.1/更新日:2026.6.1
2026年5月31日(米国現地時間)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のPlenary Session(最重要演題セッション)で、膵臓がん新薬ダラクソンラシブ(daraxonrasib)の第III相試験「RASolute 302」の最終解析データが発表されました。同日、医学誌New England Journal of Medicine(NEJM)にも論文が掲載されています。既治療の転移性膵臓がんにおいて、全生存期間(OS)を化学療法の約2倍に延長し、死亡リスクを60%低下させるという結果が確定しました。本記事では、専門医がこの最新データを速報解説します。
📌 ダラクソンラシブの基礎(作用機序・副作用・日本での見通し・KRAS検査など)については、「ダラクソンラシブとは|RAS変異膵臓がん新薬・最新エビデンス完全解説」で詳しく解説しています。
この記事でわかること
ASCOのPlenary Sessionは、年間数千の演題の中から最も影響力が大きいと判断された数演題のみが選ばれる、がん臨床における最高峰の発表枠です。今回のダラクソンラシブの発表(演題番号LBA4005)は、ハーバード大学・ダナファーバーがん研究所のBrian Wolpin医師が登壇しました。膵臓がん治療がこの枠に選ばれること自体が、このデータの重要性を物語っています。
RASolute 302は、6カ国59施設で実施された国際共同第III相試験です。標準的な一次治療(フルオロピリミジン系またはゲムシタビン系)を1ライン受けた後に病勢進行した転移性膵管腺癌(mPDAC)の患者500例を対象としました。
注目すべきは、RAS変異の有無を問わず登録した点です。これはダラクソンラシブが変異型・野生型の両方のRASを標的とする「Pan-RAS(汎RAS)」型の作用機序を持つためで、試験デザインそのものがこの薬剤の特徴を反映しています。
主要評価項目であるRAS G12変異集団での全生存期間は、以下の通りでした。
RAS G12変異集団(ダラクソンラシブ228例 vs 化学療法231例)
さらに重要なのは、RAS変異の有無を含めた全体集団(ITT)でもほぼ同一の結果が得られたことです。OS中央値13.2ヶ月 vs 6.7ヶ月、ハザード比は同じく0.40でした。RAS G12変異集団と全体集団で結果がほぼ一致したことは、この薬剤の幅広いRAS標的メカニズムの妥当性を裏づけるものと考えられます。
がんが進行せずにコントロールされている期間(PFS)も、明確に延長しました。
いずれも化学療法群の約2倍であり、病勢進行までの時間が大幅に延びたことを示しています。
奏効率(ORR)に加え、患者report によるQOL(生活の質)も化学療法と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意味のある改善を示しました。延命だけでなく「生活の質を保ちながら長く生きられる」可能性を示した点は、患者さんとご家族にとって特に重要な意味を持ちます。ダラクソンラシブは1日1回の経口薬であり、点滴を要する化学療法と比べて通院・身体的負担の面でも利点があります。
Revolution Medicines社は、これらのデータをもとに米国食品医薬品局(FDA)への新薬承認申請(NDA)を予定しています。同薬はFDAのCommissioner’s National Priority Voucher(優先審査バウチャー)パイロットプログラムに選定されており、審査の迅速化が期待されます。また、RAS G12変異を有する既治療転移性膵臓がんに対するオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定も取得済みです。
日本での承認時期について公式発表はありませんが(2026年6月時点)、こうした画期的な新薬は国際共同治験や承認申請を経て、数年内に日本でも使用可能となる可能性があります。プレシジョンクリニックでは、RAS変異がんの最新治療動向を継続的に追跡し、患者さんに最適な情報を提供してまいります。
2026年4月に発表されていたのは「トップライン(速報)」で、OS 13.2ヶ月という主要数値のみでした。今回のASCO発表(最終解析)では、RAS G12変異集団と全体集団の両方のOS・PFS、QOL、安全性を含む詳細データが公開され、NEJMにも論文掲載されました。これにより、効果が一部の患者だけでなく幅広い集団で一貫していることが確認されました。
2026年6月時点で、ダラクソンラシブは日本国内では未承認です。今後の承認申請・審査の状況によって変わる可能性があります。最新情報は当院でも継続的に追跡しています。
ダラクソンラシブは膵臓がんのほか、非小細胞肺がん(NSCLC)・大腸がんなど、RAS変異を持つ複数のがん種を対象に開発が進められています。現在、膵臓がん3本・肺がん1本の合計4本の第III相試験が国際的に進行中です。ただし膵臓がん以外の第III相試験の結果はまだ出ていません。
プレシジョンクリニックでは、KRAS変異を標的とした樹状細胞ワクチン療法・免疫チェックポイント阻害薬・腫瘍微小環境調整など、患者一人ひとりに最適化された複合的がん免疫療法をご提案しています。最新のRAS阻害薬動向を踏まえたご相談も承ります。
【表記について】「ダラキソンラシブ」と表記・検索されることがありますが、正式な一般名は「ダラクソンラシブ(daraxonrasib)」です。
【免責事項】本記事は、2026年6月1日時点で公表されている査読論文・学会発表・主要医学メディア報道に基づいて作成しています。ダラクソンラシブは2026年6月現在、日本国内で承認されていません。本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の患者様への診療を行うものではありません。実際の治療方針は、必ず主治医または専門医にご相談ください。
【監修】矢﨑雄一郎(プレシジョンクリニック東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア)
【最終更新日】2026年6月1日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。