投稿日:2026.8.1/更新日:2026.9.25
Precision Clinic Column
「イベルメクチンが、がんに効くらしい」。診察室で、そう切り出されることは少なくありません。根拠として挙がることが多いのが、2021年にnpj Breast Cancer誌(Nature Portfolioの乳がん専門誌)に載った論文です。乳がんのマウスで、駆虫薬のイベルメクチンががん細胞を「免疫に見つけてもらいやすい死に方」=免疫原性細胞死(ICD)へ導き、免疫チェックポイント阻害薬の効き目を底上げした、という内容でした。
このコラムでは、その論文を起点に、イベルメクチンとがんについて分かっていることを査読論文・臨床試験・学会の公式見解の順に並べます。腫瘍微小環境(TME)の研究として見えてきた可能性と、ヒトでまだ確かめられていないこと。その両方を、数値と出典とともに示すのがこの記事の役目です。長い記事になりました。ご自身や、ご家族が服用を考えているときの判断材料として、必要なところから読んでください。
この記事でわかること
基礎研究で示されたこと:乳がんのマウス(4T1)で、ICDの目印(HMGB1の放出・カルレティキュリンの露出)と、腫瘍内T細胞の増加。抗PD-1抗体との併用で完全奏効 6/15匹(40%)。どちらも単独では効果がなかった
2026年に起きたこと:同じ論文に著者訂正(2月)と、編集部の懸念表明(6月)。術後・転移の実験の画像に重複が見つかり、元データは残っていない
仕組みは一つではない:ICDのほかにWnt・Akt/mTOR・YAP1・PAK1・ミトコンドリア障害など十数の標的が報告されている。裏を返せば、標的が定まっていない
最大の壁:培養細胞で効いた濃度(4〜16 µM)は、通常量を飲んだときの最高血中濃度(0.04〜0.05 µM)の約75〜300倍にあたる(概算)
ヒトでのデータ:転移したトリプルネガティブ乳がんの第I/II相試験で、評価できた8例のうち部分奏効1例・安定1例・進行6例(学会抄録)。比較試験はまだなく、抄録の「臨床的有用率37.5%」は試験登録上の定義と異なるため効果の推定には使えない
米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解:2026年6月、臨床試験の外でがん治療に使うことに反対。標準治療への「上乗せ」としての使用も含む
当院の立場:イベルメクチンは基本的に処方していない。すでに服用している方に伝えていることと、4つのお願い
先に結論から。
イベルメクチンには、がん細胞の死に方を変えて免疫を呼び込む働きがある。この報告は、マウスと培養細胞の実験で積み重なってきました。乳がんのマウスでは、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)と組み合わせたときに、単独ではほとんど縮まなかった腫瘍が15匹中6匹で消えました。腫瘍微小環境(TME)を「免疫が働ける場所」に変えるという研究の流れの中で見れば、無視できない知見です。
ただし、ヒトで効果を示した比較試験は、2026年9月の時点で一つもありません。手元にあるヒトのデータは、転移した乳がんの患者さま8例の学会報告と、自己申告を集めた観察研究だけ。基礎研究の中心にあった論文には、2026年に編集部の懸念表明が付きました。同じ年の6月には、米国臨床腫瘍学会(ASCO)が、臨床試験の外でイベルメクチンをがん治療に使うことに反対する通知を出しました。
可能性はある。証拠はまだない。この記事の結論は、この二文に集約されます。
イベルメクチンとは:寄生虫を駆除する飲み薬です。日本では「ストロメクトール錠」の名で、腸管糞線虫症と疥癬に対して承認されています(体重1kgあたり約200µgを服用)。がんの治療薬としては、日本でも海外でも承認されていません。元になった物質(エバーメクチン)の発見と開発で、大村智博士とウィリアム・キャンベル博士は、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
免疫原性細胞死(ICD)とは:がん細胞が死ぬときに「ここに敵がいる」という信号を周りに出し、免疫を呼び込む死に方のことです。代表的な信号は3つ。細胞の表面に出る「食べて」の目印(カルレティキュリン)、周りに放出される「見つけて」の信号(ATP)、そして「危険」を知らせる信号(HMGB1)。英語の immunogenic cell death の頭文字をとった略称がICDです。
腫瘍微小環境(TME)とは:がん細胞を取り囲む「がんの周りの環境」のことで、免疫細胞・線維芽細胞・血管などでできています。ここが免疫を寄せつけない状態だと、免疫療法は働きにくくなります。英語の tumor microenvironment の略です。T細胞が少ない腫瘍を「冷たい腫瘍(cold tumor)」、多く入り込んでいる腫瘍を「熱い腫瘍(hot tumor)」と呼びます。
免疫チェックポイント阻害薬は、がんが免疫にかけているブレーキを外す薬です。乳がんでも、トリプルネガティブ乳がんでは抗PD-1抗体ペムブロリズマブと抗がん剤の併用が標準治療に入りました。PD-L1の発現が一定以上ある進行・再発例では、全生存期間の中央値が23.0か月(併用)対 16.1か月(抗がん剤のみ)でした(KEYNOTE-355試験、N Engl J Med 2022)。手術の前後に使う治療でも、効果が確かめられています(KEYNOTE-522試験、N Engl J Med 2020)。トリプルネガティブ乳がんの免疫療法の全体像は、トリプルネガティブ乳がんと免疫療法で解説しました。
それでも、効く人は一部です。
ブレーキを外しても、腫瘍の中に戦うT細胞がいなければ何も起きません。これが「冷たい腫瘍」の問題です(Galon J, Bruni D. Nat Rev Drug Discov 2019)。そこで研究者たちは、冷たい腫瘍を熱くする方法を探してきました。がん細胞を「免疫に見える形で」死なせるICDは、その有力な候補の一つです。ICDが起きたとき、免疫は次の順で動くと考えられています(Galluzzi L, ほか. J Immunother Cancer 2020)。
ICDから抗腫瘍免疫までの流れ(一般的な考え方)
① がん細胞が、死にぎわに3つの信号を出す
カルレティキュリン(食べて)・ATP(見つけて)・HMGB1(危険)
▼
② 樹状細胞(免疫の司令塔)が呼び寄せられる
死んだがん細胞から「がんの目印」を取り込む
▼
③ 司令塔がリンパ節でT細胞に目印を教える
がんを狙うキラーT細胞が増える
▼
④ T細胞が腫瘍に入り込む
冷たい腫瘍が「熱く」なる
▼
⑤ 免疫チェックポイント阻害薬でブレーキを外す
入り込んだT細胞が働きやすくなる
図:プレシジョンクリニック作成(誌面図の転載ではありません)。出典:Galluzzi L, et al. J Immunother Cancer 2020;8:e000337. DOI:10.1136/jitc-2019-000337/Galon J, Bruni D. Nat Rev Drug Discov 2019;18:197-218.
ここで押さえておきたいことがあります。カルレティキュリン・ATP・HMGB1は、ICDが起きていることを示す目印(代理指標)であって、免疫が実際に立ち上がったことの証明ではありません。目印が出ていても、免疫が動かないことはあります。ICDが起きたと言えるかどうかは、最終的に処理したがん細胞をあらかじめ与えた動物が、その後に本物のがん細胞を入れても腫瘍をつくらないかという試験(ワクチン試験)で確かめます(Galluzzi 2020)。ヒトでは、この確認のしかたがそのまま使えません。
ICDを起こすことが確かめられている手段には、一部の抗がん剤(アントラサイクリン系、オキサリプラチンなど)や放射線があります(Galluzzi 2020)。イベルメクチンの研究は、「身近な既存薬の中に、ICDを起こせる薬はないか」という問いから出てきたものです。既存薬を別の病気に使い直すこの発想は、ドラッグ・リポジショニング(薬の再利用)と呼ばれるものです。安く、安全性のデータが蓄積しているという利点がある一方、効果は一から確かめ直さなければなりません。同じ構図の例として、ビタミンD受容体作動薬を扱ったパリカルシトールと膵臓がんのTMEもあわせてご覧ください。
論文を書いたのは、米国シティ・オブ・ホープのPeter P. Lee医師のグループと、マサチューセッツ工科大学(MIT)のDarrell J. Irvine教授らです(Draganov D, ほか. npj Breast Cancer 2021;7:22)。使われたのは4T1という、転移しやすいマウスの乳がん細胞。ヒトのトリプルネガティブ乳がんのモデルとして、広く使われてきた細胞です。イベルメクチンは、1日あたり5 mg/kgを6日間、口から与えました。
| 調べたこと | 結果 | 研究の段階 |
|---|---|---|
| ICDの目印 | 腫瘍の中でHMGB1が細胞核から失われ、カルレティキュリンが増えた | マウス |
| ワクチン試験 (ICDを確かめる標準的な方法) |
試験管内でイベルメクチン処理した4T1細胞を先に接種したマウスは、あとから生きたがん細胞を入れても腫瘍ができにくかった(p<0.01) | マウス |
| 腫瘍内のT細胞 | CD4陽性・CD8陽性T細胞の浸潤が増えた | マウス |
| 骨髄系の免疫抑制細胞 | 脾臓の細胞を試験管内で処理すると、CD11b陽性の骨髄系細胞が最も減りやすかった(4 µM・48時間から)。P2X7受容体を遮断すると、この減少は打ち消された | 試験管内 |
| 制御性T細胞(Treg) | 試験管内で、攻撃役のT細胞とTregの比が上がった | 試験管内 |
| 単独での効果 | イベルメクチン単独でも抗PD-1抗体単独でも、生体内で意味のある効果はなかった | マウス |
| 抗PD-1抗体との併用 | 完全奏効 6/15匹(40%)。イベルメクチン単独 1/20匹(5%)、抗PD-1単独 1/10匹(10%)、無治療 0/25匹。単独の和を上回る相乗効果と判定 | マウス |
| 再発への抵抗力 | 腫瘍が消えたマウスに反対側から4T1細胞を移植し直しても、全匹で腫瘍ができなかった | マウス |
| 手術前・手術後・転移後 | 長期生存は、術前(IL-2も併用)約75%、術後約40%、転移後約40% ※術後・転移の実験の画像は、2026年の懸念表明の対象 |
マウス |
出典:Draganov D, Han Z, Rana A, Bennett N, Irvine DJ, Lee PP. npj Breast Cancer 2021;7:22. DOI:10.1038/s41523-021-00229-5(PMID:33654071)。資金は米国防総省乳がん研究プログラム、Stand Up To Cancer、乳がん研究財団。著者は利益相反なしと申告。
この働きの土台は、同じグループが2015年に報告しています(Draganov D, ほか. Sci Rep 2015;5:16222)。がん細胞の表面には、ATPを受け取るP2X4・P2X7という受容体と、パネキシン-1というチャネルがあります。イベルメクチンはP2X4受容体の感度を外側から高める(アロステリック調節)ことで、この一連の通り道を開きやすくします。すると細胞の中からATPが大量に漏れ出し、アポトーシスとネクローシスが入り混じった、炎症を伴う死に方が起こる。ATPとHMGB1が外に出るので、周りの免疫からは「目立つ死」になります。
イベルメクチンがICDを起こす仕組み(基礎研究の報告)
イベルメクチン
寄生虫では神経の受容体に作用する薬
▼
P2X4受容体の感度が上がる
アロステリック調節
▼
P2X7受容体・パネキシン-1チャネルが開きやすくなる
ATPの通り道
▼
ATPとHMGB1が細胞外へ放出される
カスパーゼ-1が活性化し、炎症を伴う細胞死
▼
樹状細胞・T細胞が呼び込まれる
マウスの腫瘍でT細胞浸潤が増加
▼
抗PD-1抗体でブレーキを外す
マウスで完全奏効 6/15匹
図:プレシジョンクリニック作成(誌面図の転載ではありません)。マウスと培養細胞による基礎研究の知見で、ヒトでは確認されていません。出典:Draganov D, et al. Sci Rep 2015;5:16222. DOI:10.1038/srep16222/Draganov D, et al. npj Breast Cancer 2021;7:22. DOI:10.1038/s41523-021-00229-5
2015年の論文では、乳がん細胞(MDA-MB-231など)が、正常な線維芽細胞よりイベルメクチンに弱いことも示されました。ただし仕組みを調べた実験の濃度は8〜32 µMです。後の章で扱う「濃度の壁」に直結する数字です。
この論文は、イベルメクチンが「骨髄系細胞やTregといった免疫を抑える細胞を選んで狙う」と記しました。表現は著者自身のもの。ただ、その根拠はマウスの脾臓から取り出した細胞を試験管内で処理した実験でした。腫瘍の中で骨髄系細胞やTregが減ったことは、この論文では直接示されていません。腫瘍内で確かめられたのは、T細胞が増えたところまでです。
目印についても同じです。この論文が腫瘍の中で確認したのは、HMGB1が核から失われたことと、カルレティキュリンが増えたこと。どちらも代理指標です。機能として確かめられたのは、マウスのワクチン試験までで、ヒトの乳がんで同じことが起きるかは調べられていません。
もう一つ。イベルメクチン単独では、マウスの腫瘍はほとんど縮みませんでした。効果が出たのは、抗PD-1抗体と組み合わせたときだけでした。「イベルメクチンだけで乳がんが小さくなった」という研究ではありません。
論文の公開から5年後、2026年に二つの告知が出ました。この事実は、イベルメクチンとがんを紹介する記事の多くで触れられていません。
| 日付 | 告知 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年2月27日 | 著者訂正 (Author Correction) |
図4のパネルDとFの画像に誤りがあった。元データが残っておらず、実験のやり直しも難しいため、誤った画像を黒塗りにした。著者は「全体の結果と結論は変わらない」としている |
| 2026年6月5日 | 編集部の懸念表明 (Editorial Expression of Concern) |
訂正の後、出版社の確認で、図4dと図4fの間に酷似した画像がさらに複数見つかった(例:4dのイベルメクチン単独群のマウス3と、4fの併用群のマウス1)。元データが入手できないため、「これらのデータは慎重に解釈するよう」読者に求めた。著者6名のうち5名が同意し、1名には連絡がつかなかった |
出典:Author Correction. npj Breast Cancer 2026. DOI:10.1038/s41523-026-00908-1/Editorial Expression of Concern. npj Breast Cancer 2026. DOI:10.1038/s41523-026-00988-z(PMID:42248882)
対象になった図4dは術後、図4fは転移後の実験で、マウスの体内のがんを光らせて撮影した画像です。ICDの目印を示した図1、試験管内の免疫細胞を調べた図2、抗PD-1抗体との相乗効果を示した図3は、告知の直接の対象ではありません。
懸念表明は、不正があったと認定するものではありません。とはいえ、同じ論文の一部で元データが残っていないという事実は、ほかの図を読むときにも頭の片隅に置いておくべきです。この論文の結果は、別の研究室による再現を待つ段階にある、と私たちは考えています。解釈:推論を含む
見落とされがちな点が、もう一つ。後で紹介する乳がんの臨床試験(NCT05318469)は、この論文の研究グループが関わって始まりました。臨床試験の土台になった論文に、試験の開始後になって懸念表明が付いたという順番です。
イベルメクチンの抗がん作用を調べた基礎研究は、ICD以外にも数多く発表されてきました。主な査読論文を並べました。すべて培養細胞かマウスの研究で、ヒトの患者さまで確かめたものは含まれていません。
| 研究 | 対象 | 報告された作用 | 濃度・量 |
|---|---|---|---|
| Draganov 2015 Sci Rep |
乳がん(MDA-MB-231、MCF7ほか)を含む多数の細胞 | P2X4/P2X7/パネキシン-1を介した炎症性の細胞死。ATP・HMGB1を放出 | 機序の実験は8〜32 µM |
| Draganov 2021 npj Breast Cancer |
マウス乳がん(4T1) | ICD、T細胞浸潤の増加、抗PD-1抗体との相乗効果 | マウスに1日5 mg/kg(経口)、試験管内は4〜16 µM |
| Melotti 2014 EMBO Mol Med |
大腸がん・肺がんなど | がんの増殖シグナルであるWNT-TCF経路を抑えた | 増殖抑制のIC50は1〜2.4 µM、マウスに10 mg/kg(腹腔内) |
| Dou 2016 Cancer Res |
乳がん | PAK1/Akt経路を抑え、増殖を止める型のオートファジーを起こした | 培養細胞とマウスで検討 |
| Kwon 2015 Mol Cancer Ther |
トリプルネガティブ乳がん | 遺伝子の働きを抑えるSIN3という因子を選択的に妨げた | 培養細胞とマウスで検討 |
| Juarez 2020 Cancer Chemother Pharmacol |
28種類のがん細胞株 | 乳がんの細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-468、MCF-7)が比較的弱かった | 5 µM(著者は「臨床で到達できる濃度」と主張) |
| Sheir 2026 Drug Deliv Transl Res |
トリプルネガティブ乳がん(4T1、MDA-MB-231) | 血小板の膜で包んだナノ結晶で腫瘍に集める工夫。T細胞浸潤の増加、肺転移の減少 | IC50は2.89 µg/mL(約3.3 µM)。ICDの目印は測定せず |
出典は記事末尾の一覧を参照。µM(マイクロモーラー)は濃度の単位で、1 µMは1リットルに100万分の1モルが溶けている状態です。
作用の仕組みは、研究ごとにばらばら。それでも共通点が一つある。どの研究も、効果が出た濃度がマイクロモーラー(µM)の単位だということです。
このコラムはICD(免疫原性細胞死)を軸に読んできました。ただ、イベルメクチンの抗がん作用として報告されている仕組みは、これだけではありません。2021年の総説(Tang M, ほか. Pharmacol Res 2021;163:105207)は、報告された標的と経路を次のように整理しています。
| 報告された作用・標的 | 報告されたがん種 |
|---|---|
| Wnt経路の抑制 | 乳がん、大腸がん |
| Akt/mTOR経路の抑制 | 乳がん、卵巣がん、神経膠腫 |
| MAPK経路の抑制 | 上咽頭がん、悪性黒色腫 |
| YAP1(増殖を促すタンパク質)の抑制 | 胃がん、肝がん |
| PAK1の抑制 | 乳がん、卵巣がん、上咽頭がん、悪性黒色腫 |
| 熱ショックタンパク質HSP27の抑制 | 前立腺がん、肺がん、大腸がん |
| ミトコンドリアの機能障害を起こす | 腎細胞がん、神経膠腫、白血病 |
| がん幹細胞の抑制 | 乳がん |
| P糖蛋白質・多剤耐性タンパク質の抑制(薬剤耐性の解除) | 大腸がん、乳がん、白血病 |
| P2X7受容体の活性化(ICDの経路) | 乳がん |
| SIN3ドメインの抑制 | 乳がん |
| DDX23ヘリカーゼの抑制 | 神経膠腫 |
| クロライドチャネルの活性化 | 白血病 |
| TFE3の活性上昇 | 悪性黒色腫 |
| KPNB1(核への輸送に関わるタンパク質)の抑制 | 卵巣がん |
出典:Tang M, Hu X, Wang Y, ほか. Ivermectin, a potential anticancer drug derived from an antiparasitic drug. Pharmacol Res 2021;163:105207. DOI:10.1016/j.phrs.2020.105207(同総説の表2を日本語に整理)。細胞死の型としては、アポトーシス・オートファジー・パイロトーシスが報告されています。
この一覧は、可能性の広さを示すと同時に、弱点も示しています。互いに関係の薄い十数個の標的に、同じ濃度帯(µM)で当たるという報告のしかたは、一つの標的にきちんと効いているというより、高い濃度で細胞に広く負荷がかかっている状態を見ている可能性があります。どの仕組みが本当に効いているのか、そもそもヒトで働くのかは、決着していません。解釈:推論を含む
当院がICDに注目しているのは、この中でTMEとの接点が最もはっきりしているからです。ただし、ICDを軸に読むことは、他の仕組みを否定することでも、ICDが本命だと決めることでもありません。
薬の効果を試験管からヒトへ移すとき、最初に確かめるのは「その濃度に、ヒトの体内で届くのか」です。イベルメクチンの場合、ここの開きが大きいのです。
| 比べるもの | 濃度 | 出典 |
|---|---|---|
| 培養細胞で抗がん作用が出た濃度 | おおむね1〜32 µM(研究により異なる) | 上の一覧の各論文 |
| 骨髄系細胞が減り始めた濃度(試験管内) | 4 µM(48時間) | Draganov 2021 |
| 通常量12 mgを1回飲んだときの最高血中濃度 | 健康成人男性で32.0 ng/mL(約0.037 µM)、外国人データで46.6 ng/mL(約0.053 µM)。いずれも服用後4〜5時間の値 | ストロメクトール錠 添付文書 |
| 通常の10倍量(120 mg)まで | 健康な成人で大きな問題なく服用できた。血中濃度はおおむね用量に比例 | Guzzo 2002 |
ng/mLからµMへの換算はイベルメクチンの分子量(約875)による計算です。
46.6 ng/mLをモル濃度に直すと、約0.053 µMです。骨髄系細胞が減り始めた4 µMは、その約75倍。仕組みを調べた16 µMなら、約300倍。10倍量を飲んでも、単純に比例させれば0.5 µM前後で、なお届きません。解釈:推論を含む
ただし、この倍率は概算です。比べているものが厳密には違います。培養細胞の実験は、その濃度を48時間ずっと維持した結果であるのに対し、内服後の血中濃度は4〜5時間で頂点に達し、半減期約18時間で下がります。血中濃度は薬の総量を表し、タンパク質と結合していない分だけが細胞に働けます。さらにイベルメクチンはP糖蛋白質の基質で(添付文書)、細胞の内側にどれだけ入るかは組織によって変わります。腫瘍の中の濃度は、血中濃度から単純には計算できません。解釈:推論を含む
出典どうしの食い違いも見つかりました。Juarez 2020は5 µMを「臨床で到達できる濃度」と位置づけました。けれども、国内の添付文書にある通常量での血中濃度は、その100分の1程度です。「臨床で到達できる」という表現は、少なくとも通常量の血中濃度では裏づけられていません。
公平のために、反対側の見方も記しておきましょう。マウスでは、1日5 mg/kgの経口投与で併用効果が出ました。体表面積でヒトに換算すると約0.4 mg/kgで、通常量(約0.2 mg/kg)の2倍ほどです。解釈:推論を含む つまり生体の中では、試験管より低い濃度で何かが起きている可能性がある。2015年の論文の著者らは、ATPが豊富な腫瘍の中では、低い濃度でも作用が強まりうると考えています。ただ、ヒトの腫瘍の中でイベルメクチンがどの濃度に達するのかは、分かっていません。
同じ構図は、新型コロナウイルス感染症でも見られました。イベルメクチンは試験管内で約5 µMでウイルスを抑えましたが(Caly L, ほか. Antiviral Res 2020)、その後の大規模な無作為化試験では、入院などを減らす効果は示されませんでした(TOGETHER試験、N Engl J Med 2022)。試験管で効くことと、ヒトで効くことは別の問題です。
がんの患者さまにイベルメクチンを使ったデータを、証拠の強さとあわせて一覧にしました。効果を比べる対照群を置いた試験は、まだ一つも結果が出ていません。
| 研究 | 対象 | 内容 | 結果 | 証拠の段階 |
|---|---|---|---|---|
| NCT05318469 (米国Cedars-Sinai、第I/II相) |
転移したトリプルネガティブ乳がん(登録予定34例) | イベルメクチン30・45・60 mg(3週ごとに1〜3日目・8〜10日目・15〜17日目)+抗PD-1抗体(バルスチリマブまたはペムブロリズマブ) | 9例登録。評価できた8例の内訳は部分奏効1・安定1・進行6。無増悪生存期間の中央値2.5か月 | 学会抄録(査読論文なし) |
| ICONIC(NCT07487805) (米国フロリダ大学、第2相) |
免疫チェックポイント阻害薬で治療中の固形がん80例 | イベルメクチン200 µg/kg(中用量)と400 µg/kg(高用量)を無作為に割り付け、各週の1〜3日目に4週間 | 2026年9月開始予定・未募集。主要評価項目は血液中のCD8陽性T細胞の変化で、腫瘍が縮むかどうかではない | 試験登録のみ |
| Hulscher 2026 (Anticancer Res) |
米国のオンライン診療で処方を受けた197例 | イベルメクチン25 mg+メベンダゾール250 mgの調剤カプセル | 6か月後に回答した122例の自己申告で「臨床的有用」84.4% | 観察研究・対照群なし・懸念表明あり |
出典:Yuan Y, ほか. J Clin Oncol 2025;43(16_suppl):e13146/ClinicalTrials.gov NCT05318469(2026年8月5日更新)・NCT07487805(2026年7月15日更新)/Hulscher N, ほか. Anticancer Res 2026;46(6):3243-3255. DOI:10.21873/anticanres.18194
この試験は、先の論文の研究グループが関わって2023年10月に始まりました。実施施設はロサンゼルスのCedars-Sinai Medical Center、責任医師はYuan Yuan医師で、学会抄録の最終著者は論文と同じPeter P. Lee医師です。対象は、転移後に治療を受けてきたトリプルネガティブ乳がんの患者さま。抄録によれば、登録された9例の転移後の前治療の中央値は5ライン(範囲1〜7)、6例は免疫チェックポイント阻害薬をすでに使っていました。
結果として抄録が報告したのは、評価できた8例のうち部分奏効1例・安定1例・進行6例、無増悪生存期間の中央値2.5か月です。ここまでが、画像で確かめられた数字にあたります。
「4か月臨床的有用率37.5%」を、効果の推定値として使わない理由
抄録は「4か月時点の臨床的有用率37.5%(95%信頼区間15.3〜91.7%)」と書いています。ただ、この数字は次の理由から、効果の大きさを表すものとして扱えません。
① 試験登録上の定義と違う:ClinicalTrials.govでこの試験の臨床的有用率は「6か月以上進行がない、またはCR・PR」と定義されています。抄録が示したのは4か月時点の数字です。
② 内訳と合わない:RECISTでの内訳は8例中2例(部分奏効1・安定1)で25%にあたります。37.5%がどう算出されたかは、抄録からは読み取れません。
③ 8例では幅が広すぎる:信頼区間は15.3〜91.7%です。この幅では、効果があるともないとも言えません。
加えて、無増悪生存期間の信頼区間は抄録上「66 – Not reached」と記されており、単位を含めて読み取れません。バルスチリマブの用量も、抄録では450 mg、試験登録の薬剤欄では300 mgと食い違っています。解釈:推論を含む
安全性については、9例で重篤な有害事象は1件(病気による貧血)のみでした。治療に関連した有害事象は、グレード1の皮疹2例のほか、貧血(グレード3)、下痢、味覚異常、全身の筋力低下、甲状腺機能低下症(グレード2)、嘔吐が各1例です。この人数では、安全性についても「大きな問題は出ていない」までしか言えません。用量レベル1と2が終わり、試験は3段階目へ進んでいます。
フロリダ大学が登録した第2相試験です(責任医師 Leighton Elliott医師)。免疫チェックポイント阻害薬による標準治療をすでに21日以上受けている固形がんの方80例を、イベルメクチン200 µg/kg(中用量)と400 µg/kg(高用量)に無作為に割り付け、各週の1〜3日目に4週間のみ内服します。200 µg/kgは、疥癬などで使う通常量と同じです。
主要評価項目は、投与2週時点で、血液中のKi-67陽性・HLA-DR陽性の非ナイーブCD8 T細胞がどれだけ変化するか。免疫が動いたかどうかを見る指標です。副次評価項目はグレード3以上の有害事象の件数と、サイトカインの変化。腫瘍が縮んだか、生存期間が延びたかは、評価項目に入っていません。イベルメクチンを使わない対照群もありません。つまりこの試験は、効果の証明ではなく、免疫への作用と安全性を確かめる設計です。
試験の背景説明そのものが、警戒の書き方になっています。自己判断での使用が広がっていること(エクアドルの2023年の調査で19%)。レゴラフェニブを使っていた患者さまで重い神経毒性が起きた症例があり、CYP3A4を介した相互作用が疑われること。腸内細菌叢への影響で、免疫チェックポイント阻害薬の効き目が落ちるおそれがあること。研究者たちは、効果を高めるのか、それとも損なうのかを見極める必要がある、と書いています。
2026年6月にAnticancer Research誌に載った研究で、「臨床的有用率84.4%」という数字が一人歩きしている状況です。けれども中身を見ると、結果はすべて患者さまの自己申告で、画像検査による確認はありません。197例のうち6か月後に回答したのは122例(61.9%)で、4割近くが追跡できていない。抗がん剤(27.9%)、放射線(21.3%)、手術(19.7%)を同時に受けた方も含まれ、どの治療の影響かを分けられません。
利益相反も見ておく必要があります。論文の開示欄には、著者全員がThe Wellness Company(TWC)に所属するか給与の支援を受けており、TWCは今回評価された組み合わせを処方・調剤したオンライン診療事業者で、イベルメクチンとメベンダゾールの調剤製剤を販売していると書かれています。自社の処方を自社の関係者が評価した研究、という構図です。
同誌はこの論文に2026年6月9日付で懸念表明を出し、9月にはその更新を公表しました。更新によれば、当初の倫理審査書類や診断の裏づけを求める調査は取り下げられ、審査は別の論点に絞られています。すなわち、臨床的有用率という合成した指標の作り方と、その元になった自己申告アンケートの解釈、治療開始との前後関係を含むベースライン評価の時期、用量と副作用の関係の根拠、追跡できた集団が全体を代表しているとする分析、用量別解析の構成、そして追跡できなかった人と、併用された標準治療の扱いです。編集部は、不正の申し立てはしていないこと、計算違いを主張しているわけでもないことを明記し、著者の異議申し立てを検討中で、結論が出るまで読者は慎重に読むようにと述べています。
インターネット上には、個人の体験談をまとめた情報も多くあります。体験談は、同じ治療を受けて悪化した方の声が集まりにくい構造を持つ情報です。効いた話だけが残る。ここが、体験談を効果の根拠にできない理由です。
2026年6月17日、がん診療の分野で世界最大級の学会である米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、イベルメクチンと、動物用の駆虫薬フェンベンダゾールについての臨床通知(Clinical Notice)を出しました。要点を以下に訳しました。
ASCO Clinical Notice(2026年6月17日)の要旨
① 推奨:イベルメクチンとフェンベンダゾールは、よく設計された臨床試験という規制上の安全策の外で、がんの治療に使うべきではない。確立したがん治療への補助(上乗せ)としても使うべきではない。
② 根拠:どちらの薬についても、ヒトの悪性腫瘍に対して安全で有効であることを示す、しっかりした査読済みの臨床的証拠は存在しない。臨床上の利益が確立していないうえに、毒性と有害な薬物相互作用の可能性があり、患者にとって受け入れがたいリスクになる。
③ 医師への呼びかけ:患者にサプリメントや代替療法の使用を積極的に尋ねること。病気と闘いたいという気持ちを受け止めながら、リスクと証拠の不足を説明すること。共同で意思決定をし、信頼関係を保つこと。
この通知は査読論文ではなく、学会としての見解です。それでも、世界最大級の腫瘍学会が、特定の薬について「上乗せでの使用も含めて反対」と明言するのは、異例のことです。
注意して読みたいのは、ASCOが否定しているのは「臨床試験の外での使用」だという点です。基礎研究の知見そのものを否定しているわけではありません。通知は、有益性と害のバランスを確かめるには、よく設計された比較試験が必要だとも述べています。基礎研究の可能性と、臨床での証拠のなさ。この二つの間を埋めるのが臨床試験であり、いまはその途中にいます。
イベルメクチンは、通常量では長年使われてきた薬です。ただし、それは寄生虫の治療で、1回か2回だけ飲む場合の話。がんの治療として続けて飲む、量を増やす、抗がん剤と一緒に飲むといった使い方の安全性は、確かめられていません。
| 確認しておきたいこと | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 添付文書に載っている重い副作用 | 中毒性表皮壊死融解症(TEN)・皮膚粘膜眼症候群(SJS)、肝機能障害・黄疸、血小板減少、意識障害 | ストロメクトール錠 添付文書 |
| 飲み合わせ | 肝臓の酵素CYP3A4が主に代謝に関わる。P糖蛋白質の基質でもある。ICONIC試験は、CYP3A4を強く阻害・誘導する薬を飲んでいる方を対象から外している | 添付文書/ICONIC試験の登録情報 |
| 報告されている相互作用の例 | 分子標的薬レゴラフェニブを使っていた患者で重い神経毒性が起きた症例。CYP3A4を介した相互作用が疑われている | ICONIC試験の登録情報が引用 |
| 食事の影響 | 脂肪の多い食事と一緒に飲むと、体内に取り込まれる量(AUC)が約2.6倍になる。添付文書は空腹時の服用を推奨している | 添付文書 |
| 心電図 | ICONIC試験は、QTc間隔が480ミリ秒を超える方を対象から外している | ICONIC試験の登録情報 |
| 免疫療法との関係 | 腸内細菌叢への影響を通じて、免疫チェックポイント阻害薬の効き目を下げるおそれが、試験の背景として挙げられている(仮説の段階) | ICONIC試験の登録情報 |
動物用の製剤や個人輸入品は、成分量や品質が保証されません。ASCOの最高医学責任者も、医師に知らせずに動物用や駆虫用の薬を自己判断で飲むことの危険を強調しました。
現在の治療内容や、服用中の薬・サプリメントを含めてご相談いただけます
臨床現場から
当院では、イベルメクチンをがんの治療として基本的に処方していません。それでも、ご自身の判断ですでに服用している患者さまがいらっしゃいます。そうした方には、「乳がんでは、ICD(免疫原性細胞死)を起こす可能性がある」とお伝えしています。院長確認済みの事実(2026年9月)
ここでいう「可能性」は、このコラムで見てきたとおり、マウスと培養細胞で示された可能性です。ヒトの乳がんで同じことが起きるかは、確かめられていません。
私たちは日々の診療で、樹状細胞ワクチン療法だけでは届かない場面に何度も直面し、がん側——腫瘍微小環境(TME)——に正面から向き合うようになりました。免疫細胞が腫瘍の内側に入れているか(TIL)が治療の成否を分ける、という見方に立っています。院長見解:コーパス準拠 詳しくは腫瘍微小環境(TME)という壁で書きました。
その意味で、「冷たい腫瘍を熱くできるか」というイベルメクチン研究の問いは、私たちが取り組んでいる問いと同じ方向を向いています。けれども、問いが正しいことと、その薬が答えであることは別の話です。解釈:推論を含む
当院の SynerTri®(シナトリ/学術名 iCCI) は、〈アクセル〉樹状細胞ワクチン療法・〈ブレーキ解除〉免疫チェックポイント阻害薬・〈スイッチ〉局所療法の3本柱を、TMEの評価と合わせて組み立てる治療設計の枠組みです。標準治療は、3本柱とは別の土台として位置づけます。イベルメクチンは、この枠組みに含まれていません。3本柱を組み合わせる考え方は複合免疫療法とはで、進行がんでワクチンを使う理由はなぜ進行がんでもがんワクチンに挑むのかで解説しています。
ここまで読んで、それでも飲みたい、あるいはすでに飲んでいる、という方もいらっしゃると思います。その気持ちを否定はしません。そのうえで、次の4つをお願いしたいのです。
ステップ1:主治医と薬剤師に、飲んでいること・飲もうとしていることを伝える
飲み合わせと副作用を確かめる出発点は、隠さずに伝えることです。ASCOも、医師の側から患者さまに尋ねるよう求めています。言い出しにくければ、このコラムを見せてください。
ステップ2:標準治療をやめない・遅らせない
イベルメクチンに、標準治療の代わりになる根拠はありません。トリプルネガティブ乳がんでは、免疫チェックポイント阻害薬を含む標準治療で生存期間の延長が示されています。まずその土台を確保してください。
ステップ3:製剤の出どころと、飲み合わせを確かめる
動物用の製剤や個人輸入品は、成分量や品質が保証されません。主にCYP3A4で分解されるため、抗がん剤などとの飲み合わせを薬剤師に確認してください。脂肪の多い食事で吸収量が約2.6倍に変わる点も知っておいてください。
ステップ4:臨床試験という道があることを知っておく
効果と安全性を確かめる正式な場は、臨床試験です。現在の試験(NCT05318469、ICONIC)は米国で行われており、日本から参加できるかは分かりません。新しい試験の情報は、主治医やがん相談支援センターで確認できます。
ヒトで効果を示した比較試験はありません。マウスや培養細胞では、がん細胞の死に方を変えて免疫を呼び込む作用などが報告されています。米国臨床腫瘍学会(ASCO)は2026年6月、臨床試験の外でがん治療に使うことに反対する通知を出しました。
該当するのは、Nature本誌ではなくNature Portfolioの専門誌npj Breast Cancerに2021年に載った論文です。対象はマウスで、イベルメクチンは抗PD-1抗体と併用したときにだけ効果を示し、15匹中6匹で腫瘍が消えました。単独では効果がありませんでした。この論文には2026年に、訂正と編集部の懸念表明が出されました。
がん細胞が死ぬときに、カルレティキュリン・ATP・HMGB1といった信号を出して免疫を呼び込む死に方です。樹状細胞ががんの目印を取り込み、T細胞に教えるきっかけになります。一部の抗がん剤や放射線でも起こることが確かめられています。
安全性は確かめられていません。イベルメクチンは主にCYP3A4という酵素で分解されるため、同じ酵素で分解される薬と影響し合う可能性があります。実際に、分子標的薬レゴラフェニブを使っていた患者さまで重い神経毒性が起きた症例が報告されています。免疫チェックポイント阻害薬との併用は、現在ICONIC試験で免疫への作用と安全性が調べられている段階です。必ず主治医と薬剤師に伝えてください。
日本でイベルメクチンが承認されているのは、腸管糞線虫症と疥癬だけです。がんに対する使用は、承認の範囲外です。当院では、イベルメクチンをがんの治療として基本的に処方していません。
現在確認できる試験は、転移したトリプルネガティブ乳がんを対象とするNCT05318469(米国Cedars-Sinai、募集中)と、免疫チェックポイント阻害薬で治療中の固形がんを対象とするICONIC試験(NCT07487805、米国フロリダ大学、2026年9月開始予定)です。いずれも米国で行われており、日本から参加できるかは分かりません。なおICONIC試験は、腫瘍が縮むかどうかではなく、血液中のCD8陽性T細胞の変化と安全性を調べる試験です。
本コラムの主な論文(npj Breast Cancer 2021、Sci Rep 2015)、訂正と懸念表明の告知、ASCOの通知、2つの試験のClinicalTrials.gov登録情報、第I/II相試験の学会抄録、Hulscher論文とその懸念表明および更新は、いずれも原文で確認しました。ただし第I/II相試験の結果は学会抄録であり、査読を経た論文ではありません。ICONIC試験はまだ始まっておらず、記述は登録情報に基づきます。推論を含む解釈には「解釈:推論を含む」と表示しました。
医学の情報は、更新されていきます。無作為化試験の結果が出れば、この記事の結論も書き換わる可能性があります。そのときは、良い結果でも悪い結果でも、同じように数値と出典つきでお伝えします。
※治療効果には個人差があります
※本コラムは、研究動向の一般的な情報提供を目的としたもので、イベルメクチンの使用を勧めるものではありません。また、個別の診断・治療方針を示すものでもありません。イベルメクチンは、国内では腸管糞線虫症と疥癬に対して承認された薬であり、がんに対する使用は承認の範囲外です。治療効果には個人差があり、すべての患者さまに同様の結果が得られるとは限りません。当院で行う免疫療法(樹状細胞ワクチン療法など)は自費診療であり、国内の保険適応や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものを含みます。実際の治療は、リスクとベネフィットを評価し、ご本人の同意のもとで設計します。
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出典(一次情報)
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Author Correction: Ivermectin converts cold tumors hot and synergizes with immune checkpoint blockade for treatment of breast cancer. npj Breast Cancer. 2026(2月27日公開). DOI: 10.1038/s41523-026-00908-1
Editorial Expression of Concern: Ivermectin converts cold tumors hot and synergizes with immune checkpoint blockade for treatment of breast cancer. npj Breast Cancer. 2026(6月5日公開). DOI: 10.1038/s41523-026-00988-z/PMID: 42248882
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監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。