投稿日:2026.8.6/更新日:2026.11.6
この記事でわかること
がん治療の現場では、次世代の併用療法や精密な再発リスク評価に注目が集まっています。従来の治療で効果が十分でなかった方にとって、新しい薬剤の登場や検査技術の進歩は切実な関心事です。一方で、期待された併用療法が臨床試験で優越性を示せない事例も報告されています。今月明らかになった臨床試験の結果や最新の検査データを読み解き、日々の治療選択に役立つ視点をお伝えします。
PD-L1高発現の未治療進行非小細胞肺がんにおいて、期待された新規併用療法の優位性は確認されませんでした。国際共同第3相試験で、抗TIGIT抗体オシペルリマブと抗PD-1抗体テビムブラの併用は、既存の単剤療法を上回る全生存期間を示せませんでした。
本試験はPD-L1の発現率が50パーセント以上の進行患者を対象に実施されました。次世代の免疫チェックポイント阻害薬として期待されたTIGIT阻害薬ですが、単剤療法に対して明確な上乗せ効果を証明できませんでした。
がんの免疫療法では、PD-1やPD-L1を標的とする治療が標準となっています。今回の結果は、併用療法が必ずしも単剤治療より優れているとは限らない現実を示しています。
私たちの外来でも「新しい併用療法のほうが絶対に効くのですか」と尋ねられる機会が少なくありません。しかし、治療選択では確立された標準治療のデータを見極める姿勢が不可欠です。ご自身の肺がんにおける薬物選択に迷われた際は、主治医や当グループにお気軽にご相談ください。
切除可能な大腸がん肝転移において、血液中の微量ながんDNAを測るctDNA検査が術後補助療法の選択に役立つと判明しました。国立がん研究センターなどの研究グループが298例を対象に実施した探索的研究の成果です。
解析の結果、肝切除後に血中ctDNAが陽性となった患者群では、術後補助化学療法の実施により予後が改善する傾向が示されました。一方で、術後にctDNAが陰性だった患者群では、補助療法の有無による差は小さかったと報告されています。
これまでの術後治療では、再発リスクの正確な層別化が難しい側面がありました。微小残存病変を血液検査で捉えるリキッドバイオプシーは、不要な副作用を避けつつ必要な治療を見極める個別化医療の基盤となります。
当院でも患者さまから「術後の抗がん剤治療を本当に受けるべきか悩んでいる」という声を多くいただきます。ゲノム技術を用いた再発リスクの可視化は、今後の治療方針決定を大きく変える可能性があります。術後の治療選択肢について疑問をお持ちの方は、主治医や当グループにご相談ください。
筋層非浸潤性膀胱がんを中心に、薬剤を長期間局所へ届ける新たな治療機器の開発が成果を挙げています。米ジョンソン・エンド・ジョンソン社が開発したシステムは、抗がん剤ゲムシタビンを膀胱内で持続放出する仕組みです。
さらに、FGFR遺伝子異常を標的とする低分子薬バルバーサ(エルダフィチニブ)についても、同様の放出システムを用いた開発が進んでいます。シスプラチンが使えない患者を対象とした臨床試験でも良好な初期データが示されました。
膀胱がん治療では、頻回の膀胱内注入に伴う通院負担や全身性の副作用が課題でした。局所滞留型の送達システムが実用化されれば、治療効果を高めながら生活の質を保てる可能性があります。
局所治療と全身的な免疫療法をどう組み合わせるかは、腫瘍微小環境を考慮する上で関心の高いテーマです。膀胱がんの最新治療や今後の適応について知りたい方は、主治医や当グループへお気軽にご相談ください。
化学療法や放射線療法に伴うつらい皮膚障害に対し、ビタミンDの内服が症状を改善する可能性が示されました。米国イリノイ大学の研究チームが実施した臨床研究で、皮膚症状の重症度スコア低下が確認されています。
がん薬物療法や放射線治療では、皮膚の発赤や痛みが患者の生活の質を大きく損ないます。重症化すると抗がん治療の減量や中断につながるため、支持療法の充実は完遂率を高めるためにも欠かせません。
本研究はまだ初期段階の報告であり、自己判断での大量摂取にはリスクが伴います。とはいえ、安全で身近な栄養素を活用した支持療法の開発は、治療を継続するための心強い選択肢となるかもしれません。
外来でも「肌の乾燥や痛みがつらくて薬を続けられない」と悩む患者さまが多くいらっしゃいます。皮膚症状などの副作用対策についても、我慢なさらず主治医や当グループにいつでもご相談ください。
当院の実例
抗がん剤が効かず転移が広がった膀胱がんステージ4に免疫療法を行い、約4か月ですべての転移が消失して3年間再発なく経過した70代男性
膀胱全摘後の抗がん剤(GC療法)が効かず、骨盤内リンパ節・腹膜播種・皮下への転移が広がり厳しい状況でした。樹状細胞ワクチン療法と活性化リンパ球療法を開始したところ、約4か月ですべての転移巣が消失し、腫瘍マーカーも正常化。その後3年間再発なく、主治医自身が学会の専門誌に一例報告として発表しています。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
2026年7月は、抗TIGIT抗体のように期待された新薬の課題が示された一方で、ctDNA検査による個別化医療の進展が確認された月でした。免疫チェックポイント阻害薬を中心とする免疫療法は日進月歩ですが、期待値だけでなく臨床試験の数字を冷静に読み解く姿勢が求められます。
プレシジョンクリニックグループは創業以来、がんのゲノム解析や腫瘍微小環境の評価に基づいた精密医療に最も力を注いできました。当グループでは一人ひとりの病態に寄り添い、科学的根拠に基づいた治療提案の実績を積み上げています。ご自身の治療方針に不安がある際は、どうぞお気軽にご相談ください。
免疫のブレーキを二重に外しても、腫瘍に免疫細胞が入り込めない「冷たい」環境では効果が出にくいことが一因と考えられています。ブレーキ解除だけでなく、免疫を起動し腫瘍環境を変える設計が必要です。
PD-L1発現やMSI、腫瘍遺伝子変異量などが目安になりますが、万能ではありません。当院では免疫の状態と腫瘍微小環境の検査を組み合わせ、どの治療をどの順で重ねるかを設計します。
高用量ビタミンDが治療に伴う皮膚障害を軽減する可能性が報告されていますが、研究段階です。自己判断で高用量を続けると高カルシウム血症の危険があるため、主治医に相談してください。
監修:矢﨑 雄一郎 医師
プレシジョンクリニック 東京院長/医療法人社団プレシジョンメディカルケア 理事長 | 専門分野:一般外科・消化器外科
がんゲノム情報に基づく個別化医療と免疫療法を専門とし、標準治療と組み合わせた治療設計に取り組んでいます。著書『免疫力をあなどるな!』。
【免責事項】本記事は2026年7月に公表された公的機関の発表・査読論文・主要医学メディアの報道に基づいて作成しています。一般的な医療情報の提供を目的としており、特定の患者さまへの診療を行うものではありません。記載した治療のなかには、国内の保険適用や大規模臨床試験で標準治療として確立されていないものも含まれます。実際の治療方針は、主治医または専門医にご相談ください。
【最終更新日】2026年9月9日
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。