投稿日:2026.4.16/更新日:2026.9.21
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この記事の結論(3つ)
1.膵臓癌のステージ4は、肝臓や肺など離れた臓器に転移がある状態です。「完治」と言い切れる状態を得ることは、いまの医療では容易ではありません。
2.治療の中心は抗がん剤です。一次治療はFOLFIRINOX・ゲムシタビン+ナブパクリタキセル・NALIRIFOX。二次治療ではオニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)が使われます。
3.画像で癌が確認できなくなり、数年にわたって再発なく経過される方もいます。当院にも、切除不能・動脈浸潤の状態から4年以上無再発の方がいらっしゃいます。本文で当院の症例をご紹介します。
膵臓癌は、見つかりにくく、治療が難しい癌のひとつです。ステージ4と言われると、ご本人もご家族も大きな不安を抱えます。
この記事では、ステージ4とはどんな状態か、どんな治療があるのか、生存率の数字をどう読めばよいのかを、順番に説明します。読み終えたときに「自分の場合は次に何を検討できるか」が見えることを目指しています。
結論:膵臓から離れた臓器(肝臓・肺・腹膜・骨など)に転移がある状態です。
癌細胞が血液やリンパの流れに乗って全身に広がっているため、手術で全部を取り切ることは原則としてできません。治療は、体全体に効く薬(抗がん剤)が中心になります。
転移した臓器によって、新しい症状が加わることがあります。それぞれの症状へのケアも、治療の一部です。
ステージ1・2は、癌が膵臓の中か、近くのリンパ節までにとどまっています。手術で取り切ることを目指せる段階です。
ステージ3は、癌が膵臓のまわりの太い血管に及んでいます。手術が難しいことが多くなります。
ステージ4は、遠くの臓器への転移がある段階です。治療の目的は「取り切る」から「進行を抑え、症状を和らげ、時間を大切に過ごす」へ変わります。
結論:完全に治すことはきわめて難しい段階です。ただし、画像で癌が確認できなくなり、数年にわたって再発なく経過される方はいます。
遠隔転移がある状態では、手術で全ての癌細胞を取り除くことができません。一方で、抗がん剤・免疫療法・必要に応じた放射線治療を組み合わせ、病勢を長く抑えることは可能になってきています。
米国SEERの統計では、転移期の5年生存率は数%台です。ただしこれは集団の平均で、個々の経過は治療への反応や全身状態で大きく異なります。
当院で治療を受けた、ステージ4の膵臓癌の方の症例です。いずれも抗がん剤に免疫療法を組み合わせています。
●切除不能・動脈浸潤のステージ4から、4年以上無再発で経過している67歳男性の症例
●肝転移のあるステージ4で、原発巣と肝転移が画像上消失した63歳男性の症例
●多発肺転移・肝転移のステージ4bで、原発巣と転移巣の縮小を確認した52歳男性の症例
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。同じ結果をお約束するものではありません。
結論:腹部や背中の痛み、黄疸、体重減少、食欲不振が代表的です。転移先によって症状が加わります。
膵臓癌は、初期にはほとんど症状がありません。軽い消化不良や背中の違和感程度で、胃腸の不調と区別がつきにくいのが特徴です。
ステージが進むと、症状ははっきりしてきます。持続する腹痛や背部痛、特に夜間に強くなる痛みが出ることがあります。
癌が膵頭部にあると黄疸が目立ち、皮膚や白目が黄色くなります。急な体重減少や強い疲労感が現れることもあります。
転移先が肺なら息苦しさ、骨なら骨の痛みというように、新しい症状が加わります。
胆管が圧迫されると胆汁が流れにくくなり、黄疸や肝機能の低下を招きます。膵臓の働きが落ちると消化酵素が不足し、栄養を吸収しにくくなって体力が奪われます。
肝臓への転移では腹水がたまることがあり、肺への転移では呼吸が苦しくなることもあります。
これらは生活の質を大きく下げるため、痛みの管理や栄養サポートを治療と並行して行います。
結論:抗がん剤が中心です。体力に応じてレジメンを選び、効かなくなったら別の系統に切り替えます。
ステージ4では、癌を取り切ることより、進行を抑えて症状を和らげることに重点が置かれます。抗がん剤を軸に、必要に応じて放射線治療や免疫療法を組み合わせます。
| 段階 | 主な治療 | 向いている人・目安 |
|---|---|---|
| 一次治療 | FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)/ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)/NALIRIFOX | 全身状態・年齢・臓器機能で選びます。体力が保たれていれば多剤併用が検討されます |
| 二次治療 | 一次がゲムシタビン系なら、オニバイド+5-FU/レボホリナート、またはFOLFIRINOX系へ。一次がFOLFIRINOX系なら、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルへ | 一次で使っていない系統に切り替えるのが基本です |
| 体力に不安がある場合 | ゲムシタビン単剤/S-1(ティーエスワン) | 高齢の方や全身状態が落ちている方。副作用を抑えた選択です |
| 遺伝子変異がある場合 | BRCA1/2変異ならオラパリブの維持療法、MSI-H/dMMRならペムブロリズマブ | 遺伝子パネル検査の結果で決まります。頻度は高くありませんが、見つかれば選択肢が変わります |
| 症状を抑える治療 | 痛み・出血・閉塞に対する放射線治療、栄養管理、疼痛管理 | 治療と並行して行います |
※一般的な考え方の整理です。実際のレジメンは、全身状態・合併症・これまでの副作用の出方・ご本人の希望をふまえて主治医が判断します。
一次治療は、体力があればFOLFIRINOX、またはゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)が選ばれます。どちらも複数の薬を組み合わせるため、効果が期待できる一方で副作用も出やすい治療です。
近年は、NALIRIFOX(オニバイド+オキサリプラチン+5-FU+レボホリナート)が、GnPと比べて生存期間を延ばしたと報告されています(NAPOLI-3試験)。日本では一次治療としての適応拡大が2025年12月に申請されており、承認状況は主治医にご確認ください。
一次治療が効かなくなったら、使っていない系統の薬に切り替えます。ゲムシタビン系の後なら、オニバイドを含む治療、またはFOLFIRINOX系です。
BRCA1/2やPALB2の変異がある方は、プラチナ製剤(オキサリプラチンなど)が効きやすいと報告されています。この場合はFOLFIRINOXなどプラチナ製剤を含む治療が優先されます。
結論:抗がん剤イリノテカンを脂質の膜(リポソーム)で包み、腫瘍に届きやすくした薬です。膵臓癌の二次治療で使われます。
オニバイド(一般名:イリノテカン リポソーム製剤)は、2020年3月に日本で承認されました。対象は「抗がん剤治療の後に進行した、手術で治せない膵臓癌」です。
使い方は、5-FUとレボホリナートとの併用です。ゲムシタビン系の治療の後に使ったとき、生存期間の延長が確認されています(NAPOLI-1試験)。
FOLFIRINOXにもイリノテカンが含まれているため、FOLFIRINOXの後にオニバイドを使う場合は、効果が重なる点を主治医が考慮します。
主な副作用は、下痢、好中球の減少、食欲不振です。副作用への対処をしながら続けることが大切です。
ステージ4では、放射線は痛み・出血・閉塞などの症状を和らげる目的で、限定的に行われます。全身療法(抗がん剤)が主体であることは変わりません。
当院では、少ない回数の定位放射線治療を免疫を刺激する目的で位置づけ、樹状細胞ワクチンや低用量の免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせる取り組みを、一部の方で行っています。標準治療として確立した方法ではないため、限られた症例で慎重に検討しています。
免疫療法は、ご自身の免疫の力で癌細胞に働きかける治療です。免疫チェックポイント阻害薬は、癌が免疫から逃れる仕組みを外す薬です。
膵臓癌では、免疫チェックポイント阻害薬を単独で使っても効果は限られます。MSI-H/dMMRという特徴がある場合は、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)が使え、有効例が報告されています。
当院では、樹状細胞ワクチン療法で免疫を動かしたうえで、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせる設計をとっています。上でご紹介した症例は、いずれもこの組み合わせです。
ご自身の治療歴で次に何が検討できるかは、膵臓がんステージ4の治療選択肢(当院の治療の組み立て)で説明しています。お急ぎの方は、東京院 03-6228-6062/名古屋院 052-238-3525/神戸院 078-940-2111 へお電話ください。相談は無料です。
結論:見つかる頻度は高くありませんが、該当すれば使える薬が大きく変わります。
腫瘍組織や血液を使う遺伝子パネル検査で、薬の「標的」を探します。膵臓癌で代表的なものは次の通りです。
| バイオマーカー | 対象になる薬 |
|---|---|
| MSI-H/dMMR | ペムブロリズマブ(キイトルーダ) |
| BRCA1/2・PALB2変異 | プラチナ製剤を含む抗がん剤、オラパリブ(リムパーザ)の維持療法 |
| NTRK融合 | ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ)、エヌトレクチニブ(ロズリートレク) |
| BRAF V600E | ダブラフェニブ(タフィンラー)+トラメチニブ(メキニスト) |
| HER2陽性 | トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)※米国で腫瘍横断承認 |
| KRAS変異 | G12C変異にソトラシブ(ルマケラス)等。KRAS阻害薬の最新情報はダラクソンラシブ(ラソンク)の解説へ |
※承認の可否・保険適用は国や時期で異なります。
結論:5年生存率は統計上3〜5%前後です。ただし集団の平均で、一人ひとりの経過はこの数字とは異なります。
年齢、体力、治療への反応、支えてくれる環境など、さまざまな要因で経過は変わります。新しい治療の選択肢も増えています。
数字だけで判断せず、いま選べる治療を知ることが大切です。
当院の実例
切除不能・動脈浸潤のステージⅣから、4年以上無再発で経過している67歳男性
癌が動脈に浸潤し、リンパ節転移も伴っており、手術はできませんでした。抗癌剤(FOLFIRINOX)を始めたものの、全身倦怠感と食欲低下が出て当院を受診されています。抗癌剤と併用する形で樹状細胞ワクチン療法を開始しました。その後の検査で、癌は画像上確認できなくなりました。4年以上、無再発で経過しています。
※個別の症例であり、治療効果には個人差があります。統計上の数値がそのまま当てはまるものでも、同じ結果をお約束するものでもありません。
結論:標準治療を土台に、遺伝子の情報・免疫療法・腫瘍のまわりの環境(腫瘍微小環境)の3つを重ねて、その方に合った組み立てにします。
1つ目は遺伝子の情報です。遺伝子パネル検査で見つかった変異をもとに、使える分子標的薬があればそれを優先します。変異の情報は、その方専用の樹状細胞ワクチンの設計にも使います。
2つ目は免疫療法です。膵臓癌は免疫細胞が入り込みにくい「冷たい腫瘍」です。樹状細胞ワクチンで腫瘍に向かう免疫を起こし、免疫チェックポイント阻害薬を低用量で適切なタイミングに組み合わせて、免疫のブレーキを外します。
3つ目は腫瘍微小環境(TME)です。腫瘍の組織を調べ、免疫細胞が届かない理由(炎症の有無、線維化、免疫を抑える細胞の存在など)を確認し、薬の種類・順序・量の決定に反映します。
抗がん剤は「投与して終わり」にせず、血液中の腫瘍DNA(ctDNA)や腫瘍マーカーを定期的に測り、効いている間は負担を減らし、変化の兆しがあれば切り替えを検討します。
治療の組み立ての詳細は、膵臓がんステージ4の治療選択肢と治療ラインナップでご覧いただけます。
「完治」と言い切れる状態を得ることは、現在の医療では容易ではありません。ただし画像上で癌が確認できなくなり、数年にわたって再発なく経過される方はいます。当院にも、切除不能・動脈浸潤・リンパ節転移の状態から4年以上無再発の症例があります。治療効果には個人差があります。
抗癌剤(FOLFIRINOX、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル、NALIRIFOXなど)が一次治療の中心です。効かなくなった場合は、オニバイドを含む二次治療に切り替えます。そこに免疫療法をどう組み合わせるかを、遺伝子パネル検査や腫瘍微小環境の所見をふまえて設計します。詳しくは膵臓がんステージ4の治療選択肢をご覧ください。
ゲムシタビンを含む抗がん剤の後に進行した膵臓癌に対して、5-FU・レボホリナートと併用して使います(2020年3月承認)。一次治療で使うNALIRIFOXについては、2025年12月に適応拡大が申請されています。使えるかどうかは主治医にご確認ください。
膵臓癌は免疫細胞が入り込みにくい「冷たい腫瘍」とされ、免疫チェックポイント阻害薬を単独で使っても効果は限られます。当院は樹状細胞ワクチン療法などで免疫を動かしたうえで組み合わせる設計をとっています。
KRAS・BRCA・MSIなどの結果によって、選べる薬や治験の候補が変わります。結果が治療に直結しないこともありますが、選択肢を漏らさないために当院では確認しています。
はい。検査結果がお手元になくても構いません。これまでの治療経過をうかがったうえで、いま検討できる選択肢をご説明します。ご相談は無料です。
・Conroy T, et al. FOLFIRINOX versus gemcitabine for metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med 2011.
・Von Hoff DD, et al. Increased survival in pancreatic cancer with nab-paclitaxel plus gemcitabine. N Engl J Med 2013.
・Wang-Gillam A, et al. Nanoliposomal irinotecan with fluorouracil and folinic acid in metastatic pancreatic cancer after previous gemcitabine-based therapy (NAPOLI-1). Lancet 2016.
・Wainberg ZA, et al. NALIRIFOX versus nab-paclitaxel and gemcitabine in treatment-naive patients with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (NAPOLI-3). Lancet 2023.
・日本セルヴィエ株式会社 プレスリリース「オニバイド点滴静注43mg 治癒切除不能な膵がんの一次治療に係る一部変更承認申請」2025年12月16日
・日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン」
監修医師
矢﨑 雄一郎医師
免疫療法・研究開発
東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。