What is Peritoneal Dissemination
腹膜は、胃や腸などの臓器を包み、腹腔内を覆っている薄い膜です。がん細胞がこの腹膜の表面に種をまくように散らばって増殖した状態を腹膜播種(ふくまくはしゅ)と呼びます。腹腔内の臓器に生じたがんで起こりやすく、診断時にすでに腹膜播種を伴うこともあります。
腹膜播種が進むと、腹腔内に水がたまる腹水(がん性腹水)や、腸の動きが妨げられる腸閉塞を起こすことがあります。手術で病変をすべて取り切ることが難しいため、難治性とされています。
腹膜播種は、腹腔内の臓器に生じたがんで起こりやすく、がん種によって性質が異なります。それぞれの特徴をふまえた治療設計が重要です。
Treatment Options
腹膜播種は全身に広がりうるため、点滴・内服による全身化学療法が治療の中心です。がん種に応じたレジメンが選択され、骨髄抑制・末梢神経障害・消化器症状などの副作用管理が重要になります。
一方、MSI-H・HER2・BRCAなどのバイオマーカー陽性例では、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬が選択肢になる場合があります。遺伝子検査の結果によって、検討できる選択肢が広がります。
腹膜播種は全身に広がりうるため、点滴・内服による全身化学療法が中心となります。がん種に応じたレジメンが選択されます。
抗がん剤を腹腔内に直接投与し、腹膜の病変や腹水に高濃度で作用させることを目指します。がん種・状態により選択肢となります。
MSI-H・HER2・BRCA変異などのバイオマーカー陽性例で選択肢になります。コンパニオン診断による適応確認が前提です。
免疫チェックポイント阻害薬 →遺伝子検査の結果をもとに、樹状細胞ワクチン療法・免疫チェックポイント阻害薬を標準治療に組み合わせる治療設計を個別に整理します。
樹状細胞ワクチン療法 →現在の標準治療の多くは「腫瘍の進行を遅らせる」ことを目標とした治療であり、腹膜播種における根治は難しいとされています。標準治療に加えて、あるいはその後に何が検討できるかを知りたい方は、現在の遺伝子検査結果・治療歴をご持参のうえご相談ください。
Latest Evidence & Trends
腹膜播種の治療は、全身化学療法を土台に、局所療法・手術・免疫療法まで研究が進んでいます。患者さま・ご家族が選択肢を理解しやすいよう、現時点で報告されている主な治療アプローチと、その位置づけを整理しました。いずれも適応や効果には個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。
胃がん(胃・食道胃接合部腺がん)では、PD-L1の発現状況などに応じて、一次治療の化学療法に免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)を併用する治療が標準治療として位置づけられています。大腸がんでは、MSI-High/dMMR(ミスマッチ修復機能欠損)の場合に免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)が一次治療の選択肢となります。腹膜播種を伴う場合でも、まずバイオマーカー(MSI・HER2・BRCA等)を確認することが、検討できる選択肢を広げる第一歩です。
参考:CheckMate-649試験(Janjigian YY, et al. Lancet. 2021)/KEYNOTE-177試験(André T, et al. N Engl J Med. 2020)
播種が限られた範囲にとどまる一部の症例では、可能な限り腫瘍を取り除く減量手術(CRS)に、温めた抗がん剤を腹腔内へ循環させるHIPECを組み合わせる集学的治療が検討されることがあります。一方で大腸がんを対象とした大規模試験では、CRSへのHIPEC(オキサリプラチン)の上乗せによる延命効果は示されず、誰にでも有効な治療ではなく適応の慎重な選択が重要とされています。卵巣がんなど一部のがん種では有用性が報告されています。
参考:PRODIGE 7試験(Quénet F, et al. Lancet Oncol. 2021)
切除が難しい腹膜播種に対し、抗がん剤を霧状にして腹腔内に加圧噴霧する低侵襲な治療法で、数週間ごとに繰り返し実施できる点が特徴です。系統的レビューでは一定の奏効が報告されていますが、現時点では標準治療として確立されておらず、臨床試験・研究的治療の段階にあります。実施可能な施設・適応は限られます。
参考:PIPACに関する系統的レビュー(複数の前向き・後ろ向き研究の統合解析)
化学療法(および免疫療法)が著効し、審査腹腔鏡などで腹膜播種が確認できなくなった場合に、根治を目指す手術(コンバージョン手術)が検討されることがあります。主に胃がんで報告されている戦略で、適応となるかどうかは治療への反応・全身状態・播種の広がりによって個別に判断されます。
参考:胃がん腹膜播種に対するコンバージョン治療に関する各種報告
腹膜播種は、免疫細胞が働きにくい免疫抑制的な腫瘍微小環境(TME)を伴いやすいことが知られ、このTMEを整えて免疫療法が働きやすい状態を目指す研究が進んでいます。当グループでは、ゲノム解析の結果に基づき、TMEの改善と免疫療法(樹状細胞ワクチン療法・免疫チェックポイント阻害薬など)を標準治療に組み合わせる治療設計(SynerTri®/iCCI)に取り組んでいます。エビデンスは限定的であり、効果を保証するものではありません。
Frequently Asked Questions
腹膜播種と診断された患者さま・ご家族から実際に多く寄せられる質問にお答えします。
Our Three Scientific Approaches
当グループが目指すのは、がんの変異情報を起点に、分子標的治療・腫瘍微小環境への介入・免疫療法を統合して、検討可能な選択肢を医学的に整理することです。効果や副作用には個人差があるため、病状・治療歴・検査結果を確認したうえで慎重に検討します。
最終的には3つのアプローチをゲノム解析の結果に基づいて組み合わせます。標準治療との並行・順次・補完といった関係性も、個別の状況に応じて設計します。
MSI・CPS・TMB・HER2・BRCA・KRAS変異の型などの分子情報に基づき、薬剤選択・免疫療法適応・ワクチン抗原設計の手がかりを得ます。エクソーム解析および各種リキッドバイオプシーを個別に実施します。
RAS変異がん専門外来 →がんは自らの周囲に免疫が働きにくい環境(TME)を作り出すことがあります。病状・治療歴・検査結果を確認し、腫瘍微小環境も含めて検討すべき論点を整理します。
TME解説コラム →免疫チェックポイント阻害薬と樹状細胞ワクチン療法(腫瘍関連抗原+ネオアンチゲン)の2本立てで、自己の免疫でがんを攻撃できる体をつくることを目指します。
樹状細胞ワクチン療法 →3つのアプローチはそれぞれがとても重要です。「ゲノム解析で判明した変異の型と免疫・TMEプロファイルをもとに、どのような治療の組み合わせが考えうるか」をチームで整理します。
SynerTri® Immunotherapy
当グループが設計した複合戦略 SynerTri® Immunotherapy(学術名:iCCI/革新的複合がん免疫療法) は、3本の柱からなります。これらをゲノム解析の結果に基づいて組み合わせ、腹膜播種を含む難治がんへの治療設計に取り組みます。
がんを攻撃する免疫細胞(T細胞)を体内で育てます。標的には、腫瘍関連抗原(TAA)に加え、そのがんに固有の変異から生まれるネオアンチゲンを用います。
※ネオアンチゲンは樹状細胞ワクチン療法の一変種(標的の選び方の一つ)であり、独立した4本目の柱ではありません。
がんがかけている免疫のブレーキを解除し、誘導したT細胞が働きやすい状態をつくります。MSI-H・CPS・TMBなどの分子情報をもとに適応を判断します。
腹腔内投与や放射線などの局所療法で、腫瘍量そのものを減らすことを目指します。腹膜播種に対しては、腹腔内投与が選択肢となる場合があります。
Precision Medicine Team
腹膜播種は、膵臓がんをはじめとする難治がんに取り組んできた当グループにとっても、難易度が高く重要なテーマです。この難治性のがんに対し、消化器(肝胆膵)内科・外科、薬物療法、免疫療法、ゲノム解析の専門家が視点を持ち寄り、患者さま個別に治療戦略をご提案いたします。
Treatment Results
当グループの腹膜播種に関する症例の一部をご紹介します。治療効果には個人差があります。
腹膜播種を伴うスキルス胃がんに対し、抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を併用。胃病変の改善と食事摂取の回復が確認された症例。
※個別症例であり治療効果には個人差があります4種類目の抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を併用。長年の懸念であった腹膜播種と腹水が画像上で確認されなくなった症例。
※個別症例であり治療効果には個人差があります膵臓がんステージ4(腹膜播種あり)に対して抗がん剤と免疫療法を実施。画像上で腹膜播種の消失が確認された症例。
※個別症例であり治療効果には個人差があります骨盤から横隔膜まで広く腹膜播種を認めた卵巣がんに対し、抗がん剤と樹状細胞ワクチン療法を併用。腹膜播種の消失が確認された症例。
※個別症例であり治療効果には個人差があります
Director's Message
How to Consult
腹膜播種について、初めての方でも相談しやすいよう、4つのステップで進めます。胃・大腸・膵臓・卵巣がん、いずれのがん種でもご利用いただけます。
相談フォームに、診断名・現在の治療状況・相談したい内容をご入力ください。
画像検査・病理診断・腫瘍マーカー・遺伝子検査・これまでの抗がん剤治療歴を確認します。
標準治療、腹腔内投与などの局所療法、臨床試験、免疫療法、支持療法の観点から、主治医と確認すべき論点を整理します。
ご入力内容を確認したうえで、担当者より折り返しご連絡します。
「自分のがんでも、ゲノム医療や複合免疫療法が選択肢になり得るか」を知りたい方へ。現在の診断内容・画像検査・治療歴・遺伝子検査結果をもとに、標準治療に加えて確認すべき選択肢を整理します。胃がん・大腸がん・膵臓がん・卵巣がんなど、がん種は問いません。